新型コロナウイルスの影響が長期化するなか、素材各社が手がける機能性に優れたマスクに注目が集まっている。帝人は工業用フィルターなどに使われている独自開発の極細繊維を活用。セーレンやクラボウは抗ウイルス加工を前面に利用者の裾野を広げる狙いだ。三井化学や三菱ケミカルも他社と組みながら強みの素材技術と知恵を結集させた新たな展開をにらむ。コロナによって生活環境や消費者のニーズが大きく変化するなか、高まる衛生意識の取り込みを図る。

 帝人子会社の帝人フロンティアは、不織布マスクに近い効果を持つ布製マスク「nunonanoni(ヌノナノニ)」(価格は1320円)で自社のオンラインショップのほか、百貨店やドラッグストアなどに販路を広げる。外側には直径700ナノメートルの超極細ポリエステル繊維「ナノフロント」を使うことで、優れたフィルター性能を発揮。内側は弱酸性素材の「エコピュアー」により細菌の繁殖を抑制する構造だ。技術・生産本部の竹下皇二技術開発部長は「洗える布マスクで医療従事者向けの開発が次の目標になる」と意欲を示す。

 セーレンは、数年前から開発に取り組む介護向け感染対策の抗ウイルス処方をベースにしたマスク「BYERUS(バイラス)」(同990円)の販売に力を入れる。中に入れる交換式のフィルター(30枚で同990円)は、新型コロナウイルスを99%以上減少させる効果が広島大学の試験で認められたという。住生活資材販売部の森近浩靖部長は「計画比で170%の売れ行き」と手応えを口にする。マスクを皮切りに、今後はカーテンやベッドカバーなどで抗ウイルス技術の用途開拓を急ぐ。

 クラボウは、抗菌・抗ウイルス機能を繊維素材の表面に固定化する独自技術「CLEANSE(クレンゼ)」をマスクに取り入れた。薬剤を分子レベルで繊維に結合させ、高い耐久性を発揮。繊維事業部事業化推進課の佐藤友隆課長は「10年以上前からの白衣やドクターコートなどの医療現場で使用される製品を中心に実績を重ねてきた」とクレンゼ加工の強みを話す。

 三井化学は名古屋大学などと共同で、ウレタンや布製マスクの下に重ねて使うインナーマスク「タートル」(本体と30日分の交換用不織布フィルターのセットで同2750円)を開発した。併用することでウイルス捕集率が高まるとしており、名大発ベンチャーのフレンドマイクローブ(名古屋市千種区)がこのほど販売を始めた。

 コロナ禍による通年需要の高まりを受け、三菱ケミカルは夏でも着けやすいポリエチレン製の冷感繊維をPRする目的で、マスクを試作。テスト販売を経て、現在は「ドラッグストアと交渉を行っている」(担当者)状況だ。

 新型コロナの収束めどが立たないなか、マスクが必要な生活は当面続くことが予想される。一方、昨年のマスク不足で新規参入の事業者が相次いだ結果、市場にはさまざまな性能や品質の商品が氾濫している。マスクの着用が日常となった今、本当に必要な商品を手にしやすいルール整備が市場の健全な成長のためにも求められることになりそうだ。

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