<量子時代の材料開発/下>

 量子コンピューターの社会実装に向けた産学共同研究が活発だ。東京大学は米IBMと2019年に包括連携協定を結び、量子コンピューターの実機を使ったハード・ソフトの開発に取り組む。その中核的な役割を担うIBM東大ラボの川﨑雅司ラボ長(東大工学系研究科教授)に、量子コンピューターによる材料開発の可能性や、産学連携の推進状況などを聞いた。

□…量子コンピューターは、材料開発にどのようなインパクトをもたらす可能性がありますか。

 「量子コンピューターが古典コンピューターと決定的に違うのは、『0』と『1』の状態が併存する『量子重ね合わせ』と、離れている複数の量子ビットが相互作用する『量子もつれ』という量子ならではの振る舞いがコンピューター内に取り込まれていることだ」

 「米物理学者リチャード・ファインマンの言葉にあるように、自然界の現象をシミュレーションするには、量子力学の原理に従うコンピューターが必要だ。例えば、分子がエネルギーを吸収して発光する『励起状態』をシミュレーションする場合、本来は分子間での電子の移動にともなう引力、反発力などの相互作用まで考慮に入れる必要がある。だが膨大な組み合わせの計算が生じるために、現在の古典コンピューターによる量子化学計算では近似を入れて計算する。量子の世界を取り込んで計算する量子コンピューターを使えば、励起状態などが正確にシミュレーションできる可能性がある」

 「複数拠点を巡る際の最短ルートを探る『巡回セールスマン問題』のような計算量が膨大になる課題も量子コンピューターが得意とするところだ。膨大な物質の中から新薬候補物質を探る、量子コンピューターによる機械学習といった応用が期待できる。情報処理に使う電力消費が大幅に減らせる環境面の期待も大きい」

□…産学連携の取り組み状況を伺います。続きは本紙で

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