新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための外出自粛で生じた食料品の“巣ごもり需要”は、昨年落ち込んだ食品包装フィルム需要を押し戻し始めている。一方で、観光地の土産物向けの包材や飲食店が使う業務用のプラ製袋などは需要が急減しており、手放しで特需とはいえない状況だ。

 日本ポリプロピレンフィルム工業会によると、3月の2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムの国内出荷量は2万830トン、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムは1万4165トン。いずれも前年同月比1~2%の減少だが、例年より長い連休に備えて出荷が多かった前年水準に近い。

冷食など下支え

 食品包装フィルムは流通小売りの食品ロス低減に向けた店頭在庫の圧縮を受けて、昨年は出荷の落ち込みが顕著だった。足元では新型コロナウイルス対策で重要度が高い在宅勤務や休校の拡大、期間延長などの措置により、自宅での冷凍食品やレトルト、パン製品などの消費が増え、フィルム需要を下支えしている。

 食品包装フィルムを手掛けるフタムラ化学は2月から在庫の積み増しを行っている。本来は5月の連休に実施する設備定修のためだが、「不測の事態に備えて例年より多めに在庫を積んでいる」と担当者は話す。

24時間フル稼働

 同業ではグンゼが3月に入り、守山工場(滋賀県守山市)と子会社の福島プラスチックス(福島県本宮市)の稼働時間を24時間体制のフル稼働に引き上げた。OPPフィルムやナイロンフィルムの引き合いが増えているためだ。三井化学東セロは設備の稼働率が高く余力がない水準。現状の高稼働の維持を最優先して安定供給に努めている。

 ただ、フィルムメーカーにとって「通常の状態ではないので、状況がいいわけではない」(フタムラ化学)というのが本音のようだ。外国人を含めた観光客の減少で、土産物の菓子・食品やグッズ向け、ホテルのアメニティー向けの包材需要が急減。飲食店で食材や調理ずみ品を運ぶためのインフレーションフィルムやラミネートを使った業務用袋の消費量は、外出自粛やいわゆる“3密”の回避の影響で減少傾向にある。

店舗向け厳しく

 こうした影響は容器分野にも及ぶ。店舗向けの飲料や調味料のパッケージとなるバッグインボックス容器の需要が減っている。
 政府の緊急事態宣言の対象が全国に拡大したことにより、外出自粛や店舗の営業時間短縮などが一層進む見通し。春の行楽シーズン需要も当面は期待できず、需要のマイナス要素がさらに増える可能性もある。平時には見落とされがちな食品包装容器が持つ食の安心安全、利便性を支える機能が力を発揮している一方で、メーカーは難しい舵取りを求められている。(松井遥心、安宅悠、兼子卓士)

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