米ファイザー・独ビオンテックや米モデルナなどが開発した新型コロナウイルスワクチンの基盤となる研究成果を生み出したカタリン・カリコー博士(ビオンテック上級副社長、米ペンシルべニア大学特任教授、ハンガリー・セゲド大学教授)、ドリュー・ワイスマン博士(ペンシルベニア大教授)が、「2022年日本国際賞」に選ばれた。受賞が発表された25日、両氏が滞在先のタイから日本メディアとのオンライン取材に応じ、今後の研究活動の展望などを語った。

 ファイザーなどの新型コロナワクチンに使われているメッセンジャーRNA(mRNA)は元々とても壊れやすい物質。人工的なmRNAを投与すると異物として体内から排除され、炎症反応が起きるため、医薬品にするのは難しいと考えられてきた。この壁を突破し、ワクチン実用化への道筋を切り開いたのがカリコー氏らだ。mRNAを構成する「ウリジン」という物質を「シュードウリジン」に置き換えるとmRNAが排除されず、治療薬やワクチンの有効成分となるたんぱく質を体内で大量に作れることを発見した。

 2人の研究には日本の研究成果も役立った。mRNAが体内分解されないために重要な役割を持つ「キャップ構造」を解明した新潟薬科大学の古市泰宏客員教授、ペンシルベニア大でカリコー氏らの実験に協力してきた村松浩美博士、免疫システムで重要な「Toll様受容体」を発見、培養細胞など提供した大阪大学の審良静男特任教授を挙げ、「日本の科学者もかかわり、とても多くの発見に貢献してくれた」(カリコー氏)。

 創薬モダリティとしてのmRNAはまだ始まったばかり。今後は心疾患、がん、新型コロナ以外の感染症に対する医薬品・ワクチン応用が進むと期待する。ビオンテックやモデルナではすでに臨床試験を行っている開発品もある。カリコー氏によると、あらゆるコロナウイルス株に対応したユニバーサルワクチンも複数開発中で、半年以内に最初の臨床試験をタイで始める予定。薬効や保管条件を向上させるため、脂質ナノ粒子、ポリマーなど薬物送達技術(DDS)の発展にも期待している。

 ワイスマン氏はワクチンのアクセス向上にも取り組む。「欧米の製薬企業が残ったワクチンを供給するのではなく、低中所得国でも自国でワクチンを開発、生産、供給できるような力をつけることが重要だ」と話す。

 約40年にわたりmRNA研究を貫いてきたカリコー氏。受賞自体に対する幸せはとくにないというが、「今回の受賞が将来の世代にインスピレーションを与え、科学者を志してくれたら」と思いを寄せる。研究は試行錯誤の連続だが、「実験は失敗しない。自分の期待が誤っていただけ。どこで行き詰まったのかを振り返り、その学びを生かすことが重要だ」。

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