中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの影響は、ディスプレイ産業にも及んでいる。武漢にあるチャイナスター(CSOT)や天馬などの大手5工場の生産が減速している。感染拡大に対処するため十分な従業員の確保が難しくなっているほか、一部の部品調達が困難になっている。テレビやノートPCの需要が高まる一方で、出荷が滞っているため、パネル価格上昇にもつながっている。サプライチェーンの混乱の影響は中国だけでなく国外、さらに原材料を供給する化学メーカーにも及びそうだ。
 IHSマークイットによると中国全体の液晶ディスプレイ(LCD)工場の稼働率は、2月に10~20%低下する見通し。パネル出荷が減る一方でテレビ、ノートPC向け需要は高まっており、パネル価格は1~2ドル上昇の予想に対し、実際は3~5ドル上昇するとみる。
 武漢にはCSOTの低温ポリシリコン(LTPS)LCD工場および第6世代有機エレクトロルミネッセンス(EL)工場、天馬の第4・5世代LTPSLCDおよび第6世代有機EL工場、BOEの第10・5世代LCD工場がある。
 中国は2020年に世界のディスプレイ製造能力の55%を占めると予測されていただけに、稼働率低下とパネル価格上昇は全世界に大きな影響を与える。中国から多くスマホ、テレビ用パネルを購入するデバイスメーカーに影響が及ぶ。さらにノートPCやモニターなど有力アプリケーションも事業見直しを迫られそうだ。
 アップルの「iPhone」は多くのパネルを日本や韓国から調達しているとされるが、組み立ては主に中国。サプライチェーンの混乱が続けば「新モデル発売時期が遅れる可能性もある」(証券アナリスト)という。
 武漢をはじめ中国のディスプレイ工場はサプライチェーンの見直しに直面している。労働者不足のほか、物流が制限され主要部品の調達にも苦労している。延長された春節休暇から従業員が戻っても、感染の有無の確認に約2週間を要する。今後も新型肺炎の感染が広がればさらなる減産で価格上昇につながる。ディスプレイ工場の新設も遅れるのは必至だ。
 なお、スマホをはじめ中国のエレクトロニクス市場は18年後半から減速傾向にある。原材料を供給する化学メーカーにも影響は及び、中国電材事業の業績は厳しい状態が続いている。20年は5G(第5世代通信)本格化でスマホ新モデル投入や基地局整備などが期待されていた。実際に5G向け原材料は19年末から中国で動きが活発化していたが「コロナで水をさされた格好」(同)という。
 中国は国策でディスプレイ産業を育成してきた。液晶パネルだけでなく原材料、製造装置を含め川上から川下まで一貫した国産化を目指しており、世界のディスプレイ生産の過半を占めるようになった。しかし、スマホやテレビを手がける電機メーカーは、調達先の一極集中にリスクを感じつつある。日本のパネルメーカーは中国の攻勢で苦戦を強いられてきたが、事業環境が変わる可能性がある。(中尾祐輔)

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