米国立衛生研究所(NIH)は、米ギリアド・サイエンシズが新型コロナウイルス治療薬として開発中の「レムデシビル」を用いた医師主導の第3相臨床試験で、プラセボ投与群より約3割早く症状が回復したとの速報結果を発表した。日米欧などで1000例超の患者が登録され、プラセボと比較して主要評価項目を達成した初めての試験となる。この報告を受け欧州では迅速承認に向けた審査手続きが始まった。ギリアドは化学・製薬各社と連携して増産を急ぐ。

 NIH傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導で行われているP3試験の速報結果が出た。1063例分のデータを分析し、レムデシビル群はプラセボ群より31%早く回復した結果を得た。NIAIDのアンソニー・ファウチ所長は「31%という数字は100%効くようなレベルではないが、この薬剤に抗ウイルス作用があるという重要な証明(プルーフ・オブ・コンセプト)になる」とコメントした。

 第三者機関の中間評価で、主要評価項目である「症状回復までにかかった期間」についてレムデシビルがプラセボより優れていると評価された。回復までの日数(中央値)はレムデシビル群11日、プラセボ群15日。死亡率はレムデシビル群8%、プラセボ群12%だった。

 同試験では、退院したか、通常の日常生活に戻れるまで症状改善したレベルを「症状回復」と定義。人工呼吸器は使わないが肺に症状がある入院患者(中等症)から、極めて重症な患者まで広く対象にしている。

 この速報を受けて、欧州では薬事当局が承認審査に動き出した。欧州医薬品審査庁(EMA)は4月30日、レムデシビルを新型コロナ治療薬として評価する「ローリング審査」を始めたと発表。ローリング審査は、緊急時に必要な治療薬を優先的に審査する制度。最終的な試験結果を待たず段階的に試験データを受け付け、順次審査し、最短で審査手続きを完了できる。

 米国でも、米国食品医薬品局(FDA)が早期承認に向けてギリアドと協議を進めており、現地では近く緊急使用許可(EUA)されるとの期待も高まっている。

 増産対応も急がれる。ギリアドは各国の化学、製薬メーカーとコンソーシアムを組み、レムデシビルのサプライチェーンを拡充する。合成プロセスの効率化やサプライヤーの追加などにより、出発原料から原薬が完成するまで約150日、原薬から最終製品の出荷まで28日に短縮できると見込む。

 同剤を10日投与する用量を1人分の治療とした場合、5月末までに14万人分、年内に100万人分を確保する計画。同社が先ごろ発表した重症患者対象の第3相試験では、5日投与でも10日投与と同等の有効性が示されたことから、目標供給量を前倒しで準備できる可能性がある。

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