新型コロナウイルスワクチンの早期供給に向けて、大手製薬同士の提携が広がっている。きっかけは欧州での供給不足だ。米ファイザーと独ビオンテック、英アストラゼネカ(AZ)が供給の遅れを発表すると、危機感を募らせた欧州連合(EU)は域内の供給を優先させる輸出規制を導入。日本では今月中旬に接種が始まる見通しだが、欧州の混乱が波及する恐れもある。各国へのワクチン接種を円滑に進めるため、仏サノフィ、スイス・ノバルティス、独バイエルなどが相次ぎ製造協力に名乗りを上げ、前例のないメガファーマ同士の製造提携が形成されてきた。

 ファイザーとビオンテックは先月、年末までに13億回分としていた生産目標を20億回分に増やす方針を発表。だがその増産準備のため、今月中旬まで供給量が一時的に停滞することも明らかにした。ファイザーはベルギー工場の製造プロセスを変更し、ビオンテックは今月末にドイツで新工場を本稼働させる。

 供給不足の早期解消に向けて、外部提携も拡大した。ビオンテックによると、昨年12月時点は3社のみだった製造拠点が、直近は13社(自社新工場を含む)以上に急増している。

 サノフィは、ドイツ工場でワクチンの充填・包装を請け負う。7月以降から欧州向けに1億2500万回分以上を製造する。同社は英グラクソ・スミスクライン(GSK)と別のコロナワクチンを開発しているが遅れており、まずは他社品の供給に協力する。ノバルティスもスイス工場でバイアル充填を請け負う契約を結び、4~6月期から製造を始める。同社は他のコロナワクチン・治療薬の製造協力にも意欲を示している。詳細は明らかにしていないが、米バクスター・インターナショナルも今月末ごろからファイザーなどのワクチンの受託製造を始める。同社は先月、米ノババックスのワクチン製造も請け負うことを決めた。

 今月から日本への供給も始まる。早ければ12日にも薬事承認が審議され、15日頃から接種が始まる見通しだ。菅義偉首相は2日夜の記者会見で、当初の予定を前倒しして2月中旬から接種を始める意向を明らかにした。ビオンテックのウグル・サヒン最高経営責任者(CEO)は同日、日本のメディア向けに開催したオンライン説明会で、「日本に約束した供給分は、約束通り供給できる」と自信を示した。日本へは今年中に1億4400万回分を供給する契約を結んでいる。

 AZも先月、製造上の問題が生じたため、3月末までに予定していた欧州向けの供給量が約6割減る見通しを発表。当局の強い要請を受けて供給量を少し増やすことになったが、当初の計画量の半分にとどまる。同社のワクチンは先月末にEUで承認されたが、当面は供給不足の懸念が続きそうだ。日本には3月末までにまず3000万回分を供給する契約を結んでいる。4月以降の9000万回分はJCRファーマがワクチン原液を受託製造する。

 欧州ではバイエルもワクチン開発に参入。mRNA分野の創薬ベンチャー、独キュアバックと提携し、ビオンテックや米モデルナと同じmRNAベースのコロナワクチンを開発する。欧州で年内の接種開始を目指す。バイエルがワクチンの開発や製造にかかわるのは初めて。先ごろ中国のCMO(医薬品製造支援)に売却した自社工場などを活用し、来年にはバイエルから1億6000万回分を追加で供給する。

 ワクチン大手では、米メルクが自社のコロナワクチン開発から撤退することを先ごろ発表した。ワクチンの製造能力が世界的に不足しているなか、自社開発がなくなった同社が今後、他社品の製造などに協力するか注目される。

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