スマートフォンや自動車などに多用されるプリント配線板(PCB)の受注が中国で急速に回復している。新型コロナウイルスの感染拡大によって生産活動が大幅に制限された中国だが、中国電子回路工業会(CPCA)の張瑾秘書長は「5G(第5世代通信)やサーバー、自動車関連向けの注文が昨年同時期よりもはるかに多い」と、好調な回復ぶりを本紙に明らかにした。対して、日本では「国内でも影響が深刻になっていると考えられる」(日本電子回路工業会=JPCA)と、タイムラグがあるようだ。東京五輪延期に新型コロナと逆風が続くなか、改めて5Gや自動運転をはじめとする新市場への期待が高まっている。

 PCBは半導体と同じく経済実態を探る指標になる。PCBの世界最大市場である中国の動きに注目が高まるところだが、張瑾秘書長は新型コロナ発生後の業界がV字回復しているという。

 CPCAでは2月の初めから対策を講じてきた。発生源とされる武漢市のある湖北省を除けば、PCB工場の平均的な操業再開度は2月上旬に40%、2月中旬に60%、3月上旬には90%に達した。3月中旬に95%になり、一部地域では100%稼働に戻っている。

 また、PCB生産能力の平均回復率は2月上旬には20%だったものの、2月中旬には50%、3月上旬に80%になり、3月中旬には90%にまで戻ったという。

 湖北省においては地域ごとに適切なタイミングでの生産再開を図っている。現状、武漢市を除けば操業再開率は70%にまで回復した。武漢市の企業は決められた手順に従って再開承認の申請を行う必要がある。

 しかし、湖北省では3月12日以降、低・中程度リスク地域に限れば「グリーンコード」を使用して省内を移動できる。このため、武漢でも大手企業の従業員不足問題が緩和されてきたところだ。

 こうしたことから、「業界は完全な回復軌道」に乗っており、「3月、4月は注文が殺到し、一部の企業は供給不足になっている」ほどだ。主な受注先は5Gやサーバー、自動車関連。材料や機器メーカーからの注文も好調で、「昨年の同時期よりはるかに多い」としている。この好調さは「6月まで続く」とみている。

 新型コロナの影響が中国よりもほぼ1カ月遅れ、収束のめども立っていない日本は様相が異なる。JPCAでは新型コロナの影響はいまだ拡大傾向にあるとしたうえで「2月時点では国内にそれほど影響がなかったものの、海外展開している企業の40%に生産や輸出で10~40%のマイナス影響があった」とする。

 とくにマイナス影響が大きいのは中国に進出している企業であり、従業員が工場に戻れず、操業停止にいたったところもあった。その後、感染がグローバルに広がってきたため、「国内でも深刻になっている」と先行きが懸念される。

 一方、プリント配線板部材は現段階で「大きな影響は出ていない」ようだ。住友ベークライトはサプライチェーンも傷んでおらず、ビジネスに目立った支障は出ていない。大震災などでの経験から、原材料のマルチソース化を図ってきたことが奏功したようだ。ライバル企業とも協業する意欲的なオープン戦略の日立化成も、目立ったマイナス影響はみられない。

 しかし、自動車大手が相次いで生産停止を余儀なくされるなど、新型コロナの影響は川下から広がっている。個人消費が落ち込み、流通在庫が膨らむと遅かれ早かれ川上の部材業界への影響も避けられない。(広木功)

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