新型コロナウイルス感染症に対する抗体療法の開発で、感染力がとくに高いとされる変異種に対する有効性が報告され始めた。抗体療法は、回復患者の血清などから抽出した中和抗体をベースにした治療薬。米リジェネロン・ファーマシューティカルズなどが変異種に対する実験を行ったところ、英国型変異に対する中和活性は維持されたが、南アフリカ型には活性が一部低下することが分かった。米イーライリリーは変異に対応した新規抗体の開発に着手した。両社の抗体療法は、すでに治療薬として米国で緊急使用されているが、ワクチンの代替となる予防薬としての有効性も報告されている。

 リジェネロンは、中和抗体「カシリビマブ」「イムデビマブ」を組み合わせた抗体療法「REGEN-COV」について、最近報告された変異種に対する有効性を検証。英国型の変異種に対しては両抗体とも高い中和活性を発揮した。南ア型も総合的な中和活性は保持されたものの、カシリビマブ単剤より活性は低下した。

 ブラジルや米国で報告され始めている新たな変異種についても、抗体が結合する部位の変異が共通しているため、同様の有効性を維持できる見込みだ。リジェネロンはコロナウイルスに対する中和抗体を数百種類同定しており、変異に対する新たな抗体医薬を早期開発することも可能という。

 イーライリリーも、米国で緊急使用許可(EUA)されている「バムラニビマブ」、同剤との併用で開発中の「エテセビマブ」が変異種に有効とみている。これまでに報告された変異の99%以上はバムラニビマブ単剤が有効で、エテセビマブと併用すれば残りの変異にも対応できると見込む。両剤とは別に、南ア型変異に対する抗体の開発にも着手し、近く臨床試験を始める。

 リリーは、英グラクソ・スミスクライン(GSK)と米ヴィル・バイオテクノロジーが開発中の抗体「VIR-7831」とバムラニビマブを併用する臨床試験も始めた。ウイルスに対する中和作用だけでなく、感染細胞を死滅させる作用もあることから、将来の変異種にも効果があると期待している。

 抗体療法は予防薬としての有効性も報告され始めた。リジェネロンは、家族が発症するなど感染リスクが高い約400人を対象に、REGEN-COVを予防投与する臨床試験を実施。プラセボ群と比較して発症率が100%、感染率が50%低下した。同社は免疫不全などでワクチンが不適合な人や即時予防が必要な人に対する「パッシブ(受動的)ワクチン」として、REGEN-COVの予防適応を申請する方針。ワクチンは免疫獲得まで数週間かかるが、中和抗体を投与する抗体療法は即時に受動免疫を獲得できる。

 リリーもバムラニビマブ単剤の臨床試験で予防効果を確認しており、介護施設入居者などに対する予防適応のEUAを申請する予定。

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