田辺三菱製薬のカナダ子会社が開発した新型コロナワクチンの緊急使用リスト(EUL)への掲載申請を世界保健機関(WHO)が保留している問題で、親会社の三菱ケミカルホールディングス(HD)が打開策を探り始めた。WHOが申請を拒む背景にはカナダ子会社に米たばこ大手フィリップ・モリス・インターナショナルが21%を出資していることがあり、出資の見直しなどが選択肢になりそう。世界にワクチンを幅広く供給するにはWHOの認証が不可欠で、早期解決を図る。

 新型コロナワクチンの国際展開は製薬企業が各国政府と契約を結んで供給するほかに、国際的な枠組み「COVAXファシリティ」がある。先進国や基金が資金を拠出し途上国などに公平にワクチンを分配・流通する取り組みで、COVAXのルートにワクチンを乗せるには事実上、WHOのEUL掲載が必要になる。

 田辺三菱が79%出資する加メディカゴの新型コロナワクチン「コビフェンツ」は2月にカナダ政府が承認した。最大7600万回分を供給する契約を結んでおり、今年は2000万回分が供給される見通し。メディカゴはカナダに続いてWHOや米国での承認を目指しているが、WHOがフィリップ・モリスの出資に難色を示し、EULの手続きが進んでいない。

 田辺三菱の上野裕明代表取締役は本紙の取材に、WHOの申請や認証が進まなければ「多くの事業機会を減らしてしまう可能性がある。三菱ケミカルHDグループと一緒になって早期解決に向けて、まさに検討しているところ」と話した。上野氏は三菱ケミカルHDグループでファーマ部門の執行役エグゼクティブバイスプレジデントを務める。出資の見直しに明言を避けたが「さまざまな選択肢がある」と述べた。

 メディカゴのワクチンはコロナウイルスの殻を再現したウイルス様粒子(VLP)を抗原に使う。たばこ属の葉に遺伝子を組み込んで作る。約2万4000人の治験で、すべての変異株を対象にした発症予防の有効率は71%だった。デルタ株への有効率は75%、ガンマ株は89%と、一つのワクチンで幅広い変異株に効果を示す。重篤な副反応は確認されていない。2~8度Cの冷蔵で保存でき、世界に流通させやすい利点もある。

 三菱ケミカルHDは25年度までの新経営方針で医薬品を中心とする「ヘルスケア&ライフサイエンス」を最重要戦略市場に位置づけ、新型コロナワクチンと他の新薬3品で売上高1300億円超を計画している。

 新型コロナワクチンの第1/2相臨床試験(P1/2)中の日本は9月までに承認申請する予定。海外を含めてこれまでの治験は初回免疫のみのため、ブースター接種の新たな治験にも近く着手し、幅広い接種機会を見込めるワクチンとして実用化を目指す。

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

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