【上海=石田亮】中国経済の中心である上海市がロックダウン(都市封鎖)を開始した。市内を東西に分け、生産、物流拠点が多く集積する東部は28日から4月1日まで、オフィスや住宅が集中する西部は1日から5日間封鎖される。工場内での生産活動は人員名簿を提出すれば可能とする区もあるようだ。しかし物流の混乱に一層拍車がかかるとみられ、日系化学企業からは足元のコロナ感染拡大の影響が、業績の下押し要因になりかねないとの不安の声も聞かれ始めた。中国の「ゼロコロナ」政策に翻弄されながら、各社ともサプライチェーン(SC)の維持に奔走している。

 <東西に分けエリア封鎖>

 黄浦江(長江の支流)を境に、まず3月28日から東部の浦東、浦東南とその隣接地域(浦東新区、奉賢区、金山区、崇明区、閔行区の一部エリアなど)で事実上のロックダウンが始まった。同エリアは金山区をはじめ、日系メーカーの生産拠点や物流拠点が多く配置されている。第2弾は4月1日から、オフィス、飲食店、住宅地が集中しており、日系のオフィス、駐在員の自宅も多い西部の浦西地区で封鎖される。

 封鎖区域内での出入りは原則禁止。生活必需品の受け取りは居住エリアの管理者が指定する場所で行う。政府や医療関係者、運輸、公共サービス事業者を除き、民間企業は在宅勤務が義務づけられる。封鎖区域内ではバス、地下鉄、フェリー、レンタカーの運行が停止され、緊急車両以外は通行不可になる。市内では市民が生活必需品を買いだめする動きがみられ、日系スーパーの店頭から野菜や肉が消える事態となった。

 上海化学工業区(奉賢区)内のある日系メーカーはロックダウンに備え、27日の夜間に急遽必要人員を工場入りさせ、工場内での常駐体制を準備した。同社の主原料はパイプラインで移送されるため車両輸送と異なり外部との接触を避けることができる。2班2交代制でロックダウン中の期間も生産可能な体制を構築したことで、生産活動によるSCへの影響は軽微で済んでいるという。

 西部に生産拠点を置く日系化学メーカーは、東部からのモノマーが入らず、在庫がなくなり次第、生産を止めざるを得ない製品もあるという。逆に十分な原料を有している製品は、西部でロックダウンが開始する4月1日から5日までの期間も生産を続けるか検討中と語る。

 また、ロックダウン開始を見越したメーカーもある。包装材料が納入されないことを予想し、材料の在庫水準を事前に高めていた。一定期間仕入れがなくなっても、安定供給できる体制を整えた。

 危険化学品を扱う化学メーカーのプラントや工場の急な停止・再稼働は容易ではない。日系のメーカー数社からは「工業区の政府にも再三説明してきた。事前の告知など配慮がほしい」と不満を漏らす。

 <5日まで正常化は困難>

 物流面、とくにトラックなどによる陸路輸送は大きな影響を受けている。そもそも3月半ばから実施されていたブロックごとの隔離政策・PCR検査で「稼働可能なドライバーの数も肌感覚では半分程度まで減少している」(日系物流)状況で、東西両エリアの陸上物流はひっ迫していた。

 ロックダウンにより状況は悪化の一途をたどる。東部の倉庫エリアには上海化学業界にも多くのユーザーがいる。「倉庫が封鎖されたことで入出庫ができない。貨物がそのまま放置されている。陸上物流はまひ状態」(日系企業)とため息が漏れる。正常化のためには4月5日の解除を待つしかない状況だ。日系物流の総経理は「先週の段階ではロックダウンになるとは誰も予想していなかった。その場で対応するしかない」とSCを守る手段を必死で講じている。

 近隣都市への輸送も困難になっている。28日からは一部園区の受け入れ要求が一層厳格化した。平湖市(浙江省)の園区では「ドライバーのPCR検査証明書の提示はもちろん、トラック自体のスペックや防疫対策などにも要求があった。対応可能な車両がなく、顧客も受け入れ不可による原料不足で困っている」と高いハードルが設けられたようだ。同園区の試みが水平展開されることが懸念されており、さらなる対応が必要になっている。

 日系企業の中には3月に決算を迎える企業も多い。今回のロックダウンが業績に少なくない影響を与えることが懸念される。決算を迎える日系大手商社は「影響をどこまで少なくできるか勝負どころ」と覚悟を語る。

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