シンガポールに工場を置く化学企業は、新型コロナウイルス感染拡大にともなう部分都市封鎖(CB)や外国人労働者の感染拡大、マレーシアの都市封鎖など次々に生じる経営上の諸問題に対処し、安定操業を続けている。住友化学の地域統括会社・住友化学アジアの酒井基行社長に話を聞いた。

▼…CB発令後の対応は。

 「市内中心部で発生した集団感染を受け、CB発令(4月7日)前に事務所勤務者はチームごとに交代で在宅勤務することを決め、実施していた。工場従事者を絞る準備もしていたため対応は円滑だった。社員の工夫もあり、感染防止を徹底する一方、大きな問題なく業務を続けている」

 「(都市封鎖で国境が原則閉じられた)マレーシアからシンガポール・ジュロン島の工場に通勤する社員もおり、うち数名にはホテルを確保して封鎖後も勤務を続けてもらっている。設備維持補修や物流を担う協力会社には計300人の通勤者がおり、こちらは協力会社の判断で全員がシンガポールにとどまった」

▼…協力会社に多い外国人労働者の集団感染が発生(※1)した影響は。

 「外国人労働者が関わる現場は、平常人員の8~9割を失うことが想定される極めて深刻な事態で、メチルメタクリレート(MMA)生産設備の一時停止も考えた。原料供給会社や顧客も影響を受けることが考えられ、サプライチェーン全体が停止する可能性もあった。感染者隔離にともない緊急措置が必要で、稼働率を落とすなどして対応した」

 「夏にMMA設備の定修を予定していたが、実施時期を延期せざるを得ない。ただ生産効率などの理由で延期にも限界がある。一部機器の維持更新には海外からの支援が必要だが、現在入国ができない状況だ」

▼…MMA事業の状況は。

 「(誘導品を通じた塗料や樹脂など)自動車向けの需要は厳しく、都市封鎖が敷かれたマレーシア向けの出荷にも影響はあるが、7月以降は稼働率を引き上げられるとみている。誘導品のPMMA(メタクリル樹脂)は、フェースシールドや間仕切りなど感染防止向けの需要があり、8割稼働を維持している」

 「昨年、休止していたMMA1系列を再稼働させ、計3系列体制に戻した。原料にMTBE(※2)を使うプロセスは、中長期的にガソリン需要が逓減するといわれるなか、今後も優位性を維持できるとみている。現在、MMA設備を対象に複数のデジタル化投資を進めている。蒸気使用を最適化するシステムはすでに実用化し成果を得た。センサーを設置して挙動情報を蓄積、解析し、設備保全を効率化するシステムの試運転も始めた」

▼…ポストコロナで、中国の市場としての位置付けに変化はありますか。

 「中国は今後も重要な市場であり、もとより感染症以外のリスクも認識している。ただ中国は長期的に、化学産業で純輸出国になることを目指している。合繊原料など一部製品は他の市場を探索せざるを得ない」

▼…ペトロ・ラービグ(サウジアラビア)製品の販売状況は。

 「ラービグ品の多くは汎用品だが、その需要は新興市場では経済成長に応じて必ず伸びる。足元も、(包装材料などに使うフィルムの)コンバーター向けで合成樹脂の需要はおう盛だ」

▼…シンガポール拠点の中長期的な位置付けは。

 「住友化学グループのシンガポールにおける売上高は年間5000億円以上。駐在員も多い。国として常に挑戦する姿勢を持ち、アジア太平洋地域における事業の要衝としての魅力は色あせることはない」(聞き手=中村幸岳)

※1シンガポールでは建設現場やプラントの維持補修、物流、産業廃棄物処理などの現場で、南アジアや東南アジア出身の外国人労働者が多く業務に従事している。こうした労働者の専用宿舎で新型コロナウイルスの感染が広がった。5月末現在、シンガポールの感染者の9割以上が外国人労働者。

※2メチルターシャリーブチルエーテル。オクタン価向上剤としてガソリンにも使われる。

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