新型コロナウイルスの世界的な広がりによる自動車市場の冷え込みが、タイヤや部品の原料に使われるゴムにも及んでいる。ゴム専門商社、加藤事務所(東京・中央)の加藤進一社長に、コロナショックがゴムのマーケットにどのような影響をもたらしているか聞いた。

■新型コロナウイルスの感染拡大によって、ゴムの分野にどのような軋みが生じていますか。

 「ゴム消費量に占める天然ゴム、合成ゴムの比率はおおむね半々で、約7割がタイヤ、約15%が自動車部品、約10%が医療用手袋や接着剤などの一般産業や消費財用途に使われる。世界消費量の約44%を中国が占める構図だ」

 「最初に新型コロナが蔓延した中国では春節(旧正月)後に労働者が戻れず、自動車販売も落ち込んだ関係で山東省や上海市などに集積するタイヤ工場が2~3月にかけ操業を停止した。現在は続々と再開され、稼働率は6割程度に達している。新型コロナのパンデミック(世界的流行)で操業停止を余儀なくされた欧米のタイヤ工場でも操業再開の動きが出始めている。ただ欧米のメーカーが5月に再稼働する前提に立っても、20年のゴム消費量は前年比で15%ほど減るのではないか」

■世界的な自動車需要の落ち込みが日本のサプライチェーンにも影響を与えています。

 「これまで日本のタイヤ、ゴム製品の工場はあまり影響を受けていなかったが、5~6月の自動車の減産方針を受けて生産計画の見直しに入っている。あるゴム部品メーカーは5~6月は4~6割程度の減産を覚悟しているという。タイヤに関しては物流網が動いているために交換用需要があり、そこまで落ち込まない可能性はあるが、新車用と輸出が減っている。タイヤ工場も減産の動きが出てくるだろう」

 「合成ゴムを生産する日本の化学企業も9割程度の稼働率を維持してきたが、自動車関連の需要低迷によって新規の受注が止まっている状況だ。在庫が増えるなかで、どの企業も生産調整すべきか悩んでいる」

■新型コロナの影響で医療用ゴム手袋は世界的に不足しています。

 「医療用ゴム手袋は世界中から注文が殺到し、需要が通常の約3倍ともいわれる。だが、世界生産量の約7割を占めるマレーシアでは政府が活動制限令を敷く関係で十分な労働力が確保できず、増産対応がとれない。ゴム手袋は成形用の型から取り外す際に人手が必要なため賃金が安い国でないと生産できない。主要生産国のマレーシアやタイで工場の稼働時間が延ばせるようになれば、原料の天然ゴムやニトリルゴム(NBR)ラテックスの需要が増えるだろう」

 「新型コロナ関連では医療用機器に使われるシール材などのゴム部品も米国などでのメーカーの増産対応にともなって需要が増えている。さらにタイヤ大手の仏ミシュランが医療用マスクの生産を始めるなど、欧州でもタイヤ、ゴム業界が力を合わせて困難に立ち向かっている」

■消費量の多い自動車関連の需要低迷によって当面はゴム市況の上値が抑えられる状況が続くでしょうか。

 「東京市場の天然ゴム先物(RSS、期先)は1キログラム140円程度。天然ゴムの収穫量が減るウインタリングシーズン(落葉期)入りもあり2月に180円程度まで上昇したが、新型コロナが世界に広がったことで下落した。中国のタイヤ工場再稼働により足元で多少の値戻しはあるが、新型コロナの収束が見通せず市場は疑心暗鬼の状態だ。欧米のタイヤ工場の操業再開が本格化するまで、この状況は続くだろう」

 「天然ゴムは採算ラインが180~190円程度、持続可能な収益を得るには200円程度必要とされ、今の価格は完全に採算が割れている。数カ月のがまんというのが天然ゴム農家の心理だ」

■合成ゴムも市況下落が続いています。

 「主にタイヤ用のスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)ともに足元のアジア市況は1月に比べ1トン当たり250~350ドルほど安い水準。だが原料のブタジエンの下落幅は合成ゴム以上で、600ドル以上下げている」

 「基礎化学品のエチレンなどを作るナフサクラッカーでは原料となるナフサ(粗製ガソリン)の投入量に対して14%程度の比率でブタジエンが生成される。クラッカーがそれなりの稼働率を維持する一方で、主要国のタイヤ、合成ゴムメーカーが操業停止や稼働調整に入ったことでブタジエンが行き場を失って、足元の原油、ナフサ安以上に価格が下落する異常事態となっている」

 「国内の合成ゴムの値決め方式は原料価格と連動するフォーミュラー制が採用されている。価格改定時期は約3カ月ごとだが、このまま行くと次の5月はナフサ安にブタジエンの大幅下落が上乗せされ合成ゴムの採算が大幅に悪化するか、赤字になる。フォーミュラー制の変更は過去に例がないが、コロナショックのインパクトはリーマン・ショック以上。今回に限り6カ月平均の値決めにするなど、ナフサの20年4~6月価格がみえた段階で合成ゴムメーカーから需要家への働きかけがあってもおかしくない」(聞き手=松井遙心、石川亮、小林徹也)

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