素材・化学各社が集中的に強化してきたバイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)事業が、新型コロナウイルス感染症の検査から治療薬、ワクチンまで幅広い需要を捉えている。味の素は米政府とPCR検査用の検体を運ぶバイアルを供給する契約を結んだほか、治療薬の製造も始める。AGCやカネカはワクチンの生産を計画する。ただ、コロナ需要は一過性のリスクをはらむ。コロナ対策への貢献と高成長の持続を両立できるか、今後の事業運営のカギを握る。

 味の素は、他社から受け入れたバイオ医薬の原薬をバイアルやシリンジに充填し、最終の医薬品に仕上げる技術に強みを持ち、この分野の大手だ。コロナ向けの治療薬は米製薬2社と契約を結んだ。ヒューマニゲン社が最終治験中の抗体医薬「レンジルマブ」とサイトダイン社の同「レロンリマブ」を注射器に無菌充填する工程を、サンディエゴ拠点で手がける。グループ会社のジーンデザイン(大阪府)はコロナ検査薬の原料を供給するという。

 新型コロナのPCR検査では患者から採取した検体を、滅菌したリン酸緩衝液に懸濁する。この懸濁液を検査機関に送り、PCR装置に装填してウイルス遺伝子を増幅し、感染を判定する。味の素は米連邦緊急事態管理庁(FEMA)と、滅菌したリン酸緩衝液を詰めたバイアルを9月末までに250万本供給する契約も締結した。5月に1回目を受注した。

 AGCもコロナ向けに治療薬からワクチンまで受託を広げている。国内ベンチャーのアンジェスが開発中のコロナワクチン中間体の製造を受託するのに続き、米ノババックスが治験中のナノ粒子ワクチンの効果を高めるためのアジュバント(増強剤)のプロセス開発や量産をデンマーク拠点で受託すると4日に発表。米社は年内にワクチン1億本、2021年に10億本を供給する構想を掲げる。

 ワクチンではカネカもベルギーのバイオ医薬品拠点で、主成分になるmRNAやプラスミドDNAを微生物を培養して量産する方針。富士フイルムは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などが立上げた新型コロナウイルス感染症の治療推進プロジェクトが開発を支援する治療薬のプロセス開発・製造を、21年から数年間にわたって受託する計画だ。

 一方で新型コロナ向けの治療薬やワクチンの開発が成功するかは分からない。ワクチンの場合は大型な量産工場が必要となり、実用化に備えて設備投資をしても需要が一過性で終わり、投資を回収できないリスクも想定される。インフルエンザなど従来のワクチンは製薬会社が製造まで請け負うケースが多かった。

 もともと素材・化学各社がバイオCDMOを重点分野に据えたのは、年率2ケタの持続成長を見込める抗体医薬の製造需要を取り込むためだ。製薬会社やベンチャーの製造外注化の流れは一般的となり、米欧を中心に新薬候補も続々と開発される状況にある。競合のCDMOと案件を取り合わなくても、リスク分散と高成長を両立できる事業モデルを確立しつつある。

 コロナ禍をくぐり抜けてもこのモデルを踏襲できるか。素材・化学各社のバイオCDMO戦略が改めて問われる局面に入る。

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