国産ワクチンの開発・生産を後押しするための国家戦略がまとまった。政府が開発から生産体制構築、薬事承認までの各段階で強力な支援を行うことをうたったのがポイントで、研究開発を超えた総合的な司令塔機能の創設も見据える。国内製薬企業やベンチャーが寄せる期待も大きく、いかに迅速に必要な予算措置や規制改革を行うのか、政府の本気度が問われている。

 「新型コロナウイルス感染症収束のためには、国産ワクチンの早期開発・実用化は急務。今回の決定はその実現に向けた後押しになる」。ワクチン開発を進めるKMバイオロジクスの永里敏秋社長は強い期待感を示す。今月1日、政府は「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定し、国を挙げて取り組む方針を掲げた。9項目で構成し、内閣府、外務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の5府省が名を連ねる。5月25日に開いた研究機関や製薬企業の代表者らで構成する「医薬品開発協議会」の提言がベースだ。

 9項目中、大きな柱に位置づけられるのが「世界トップレベルの研究開発拠点形成」「戦略性を持った研究費のファンディング機能の強化」の2つ。前者の場合、感染症やウイルスだけでなく、ヒト免疫やゲノム、人工知能(AI)などをさまざまなアプローチを組み合わせることで、ワクチンの最速臨床応用を目指せるようにする。

 一定数の研究者は外国人、公用語は英語とすることも想定する。「国としてコミットメントしていく」(文科省幹部)一方、産業界との連携も要件化し、出口を意識した取り組みを進める。

 ファンディング機能の強化を狙い、司令塔役を果たす「先進的研究開発戦略センター(スカーダ)」を日本医療研究開発機構(AMED)に置くことも打ち出した。理事長直轄組織として、新設する厚労省のワクチン振興部局と連携しつつ、戦略的な予算配分を行い、新たな治療手段(モダリティ)の育成などを担う。

 緊急時はシーズとモダリティのマッチングを速やかに実施。必要な資金を投じ、実用化を後押しするとともに、進捗に応じてプロジェクト支援の可否を判断できる権限も付与する予定だ。
 戦略が固まったことで、必要な予算措置、そして規制改革をどれだけ迅速にできるかに次の焦点は移った。


 井上信治健康・医療戦略担当大臣は、政府戦略であることに触れつつ、「必要となれば各省庁が連携し、必要な予算措置や規制改革を講じていく」と強調する。今国会での補正予算案の提出見送りの方針が固まるなか、予備費の活用も視野に必要な補助を行えるかが課題だ。


 規制改革への期待も大きいが、厚労省幹部は、「国際的な議論を踏まえ、そのコンセンサスを先取りする格好でできれば」と薬事承認の柔軟な運用に含みを持たせる。一方、「いろいろなデザインの治験を提案できるような能力が必要」(国立がん研究センター・柴田大朗生物統計部長)と医薬品医療機器総合機構(PMDA)の対応力向上を求める声も上がる。


 永里社長は、次のパンデミックが起きた時に備え、「平時からワクチンの研究開発や供給体制整備への支援に期待したい」とのコメントを寄せる。画餅に終わった2007年の「ワクチン産業ビジョン」の轍を踏むことなく、国を挙げての実行力が何よりも欠かせない。

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