●…緊急事態宣言が全面解除となりました。

 「新型コロナウイルスの影響はリーマン・ショック時とよく比較される。リーマン・ショックは金融が傷み、お金がまわらなくなった。原因がはっきりしており、傷んだ金融が元に戻れば立ち直ると対策も打ちやすかった。今回の新型コロナの蔓延は人、モノの動きを完全に止めた。最も影響を受けたのがサービス業や旅行業、ホテル業、エンターテインメント業など。こうした仕事を含む第3次産業に携わる人たちは全労働人口の7~8割を占め、さらに中小企業も多い。これらの業界が長期の自粛を余儀なくさせられたことが、今回の新型コロナの根が深いところだ」

●…根本的な解決策は何でしょうか。

 「一言で言って『安心感』だと思う。新型コロナウイルスは不治の病ではなく、治療法があって、早期に治療すれば完治すると言えるようになることが、経済を好転させるための一番の特効薬ではないか。人々が思う不安材料を一つずつ取り除いていくことが一番の策だと思っている」

●…安心感を生むための製品を数多く投入してきました。

 「例えばPCR検査が増えない問題があり、全自動かつ短時間でPCR検査できるキットを上市した。マンパワーをかけずに検査数が増えていけば、早期発見につながり、すぐに治療に入っていける。治療薬では抗インフルエンザ薬『アビガン』の有効性、安全性について治験を行っている真っ最中だ。また、適切な治療であるかどうかの判断も重要。新型コロナウイルスの肺炎は肺の下の方から広がるという事例も報告されているようだ。そのほかインフルエンザ、新型コロナ以外の肺炎もある。一口に肺炎と言っても治療法が違うということだ。これらの違いをCT画像で見分けるのは難しい。われわれはCT画像のビッグデータを人工知能(AI)で解析する技術を持っており、2020年度中に新型コロナウイルス肺炎の診断をサポートする製品を発売する方針だ。コロナ禍で各方面から引き合いが強まっていることを受け、改めて当社が開発してきたソリューション、進んできた方向性は間違っていなかったと感じている」

●…アビガンに対する期待が高まっています。

 「国内では承認申請に向けて3月末から有効性と安全性を確認する臨床試験(治験)に着手した。それとは別に(保険対象外の疾患に投与する)適応外使用の枠組みで、医師による副作用も含めた十分な情報提供と患者の同意を条件に観察研究として投与が始まっている。日本医療研究開発機構(AMED)から支援を受けた臨床研究を通じて効果を検証する取り組みもある」

 「われわれの企業治験は、100人程度の患者を対象に6月末まで実施する計画。アビガン投与時の治療効果については、まだコメントできる段階にない。治験と並行してアビガンの増産も進める。7月に月10万人分、9月に月30万人分の生産体制を構築し、日本政府の備蓄増や海外からの提供要請に応えていく」

●…デンカやカネカ、宇部興産などが相次いで原料、中間体の製造を請け負い、アビガンの供給体制確立に協力を表明しました。

 「コスト優先で考えると、どうしても安定供給にしわ寄せがいく。原料を中国やインドに頼るのはある程度は仕方ないことだが、こういう事態になってくるとサプライチェーンを一極に集中させるのはリスクだということを改めて感じた。海外依存の高さが日本の医療体制の弱みとして浮かび上がっているとの見方もあり、緊急時の混乱に備えてサプライチェーン全体を国内で完結させる方向に向かうのは必要な措置だと思う。実際、私自身が十数社の社長に直接お願いしに行き、ご理解いただいた。人の命にかかわり、サプライが止まったら致命的な影響を受ける医薬品については、国内で最低限の数量を確保できる体制を確立しておくべきではないか」

●…新型コロナは御社の企業活動にどれほど影響を及ぼしましたか。

 「当社は過去に本業の写真フィルムがなくなる荒波を経験しており、その際に事業の方向性を決め、全社一丸で頑張るファイティングスピリッツを培った。コロナでひるむ会社ではなく、そういう社員もいない。『疾風に勁草を知る』のように逆境に立ち向かい、苦難を乗り超えることで自信や強さが得られる」

●…過去の経験が生きているんですね。

 「この危機を恐れるなと。課題は明確であり、目の前のことに全力で取り組めば、結果はおのずとついてくる。逆境下、みなで頑張る。これは全社員の共通理解だ。ともに考え、早急に対策を打つ。これをスピーディーに回すこと。そのためにコミュニケーションは常に密に取っており、縦の連携や事業部間の横のつながりなどは常にスムーズだ」

 「本業がなくなる危機に直面し、技術のたな卸しを軸に経営改革を進めていった結果が今の事業体制だ。一見、各事業はばらばらにみえるかもしれないが、すべて根っこは共通の技術でつながっている。コア技術から外れた事業は一つもなく、ある社員が別の事業部に移ってもそこですぐに通用する。事業部間のシナジーが強く、それが会社全体の密なコミュニケーションにつながっている」

 「コロナ禍で改めて思うのは事業の多角化がリスク回避につながったということだ。投資家目線ではよく『コングロマリット・ディスカウント』といわれるが、当社の各事業は技術シナジーが大きく『コングロマリット・プレミアム』と自負している」

●…テレワークなどはいかがでしたか。

 「経営層や事業部のトップなどは基本的に毎日出社していたが、多くの社員はテレワークで業務にあたった。最初はうまくいくのか半信半疑だったが、いざやってみるとスケジュールを管理しやすい。朝一番に今日やるべきこと、終業時に今日何をやったのかを報告することになっており、こうしたことはテレワークの方が徹底しやすいことが分かった。一人ひとりの働きぶり、成果が目にみえて分かるなどテレワークは意外と使えるなと。とはいえ、顔を合わせた直接のコミュニーケーションも大事であり、テレワークではできない相談や細やかな意思疎通のために週1回程度出社している社員が多かった」

●…テレワークを加速しますか。

 「良い面を取り入れつつになると思う。私個人としてはフェーストゥーフェースでコミュニケーションを取りながら進めるのが仕事の基本だと思っている。一方でテレワークの良い面もみえたので、時差出勤なども含めて制度化を検討していきたい。会社が求めるのはアウトプットの最大化であり、効率的に仕事ができる環境を整えたい」(聞き手=高橋篤志、小谷賢吾)(随時掲載)

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