日本新薬は、口から吸入するタイプの新型コロナウイルス感染症治療薬を開発する。吸入剤は薬剤が肺などに直接作用するため、呼吸器系への抗ウイルス効果と安全性が期待できる。ウイルスの変異しにくい部分をターゲットにし、あらゆるコロナウイルスに有効な核酸医薬の実用化を目指す。開発候補品を絞り込む最終段階に進んでおり、来年度にも治験を始める計画。開発に成功すれば、軽症患者が自宅で服用できる治療選択肢が広がる。

 日本新薬は世界で最も長いRNA(リボ核酸)を作れるという独自技術を生かし、コロナ治療向けの核酸医薬を開発している。コロナウイルスのRNAに結合して分解し、ウイルスが増殖しないようにする作用が期待される。

 このほど就任した中井亨新社長によると、「軽症から中等症の患者が自宅でも治療しやすい投与形態で開発を進めたい」考えで、吸入剤として開発する方針。吸入投与すると薬剤の有効成分が肺や気管にとどまりやすいため、呼吸器系に対して直接的な抗ウイルス効果が期待される。肺などに直接作用するため、副作用リスクを低減できる可能性もある。

 同社が目指すのは、コロナウイルス全般に有効な治療薬。過去に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)、昨年以降に出てきた新型コロナウイルス変異株などに共通する遺伝子配列を解析。共通領域から変異が起こりにくい領域を複数選んで標的にするため、今後出てくる新たなコロナウイルスや変異株にも有効とみている。投与する時は長鎖の一本鎖RNAだが、細胞内に入ると標的別のsiRNAに切断されて各標的を分解する。

 現在は開発候補品を絞り込む最終段階で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と協議しながら年内にも決定する。GLPレベルの前臨床試験などを行ったうえで、来年度中のヒトに対する第1相臨床試験(P1)開始を目指す。

 コロナ治療向けの核酸医薬は他社も開発している。核酸医薬ベンチャーのボナック(福岡県久留米市)も吸入剤を開発中で、来年の治験入りを目指している。米アルナイラム・ファーマシューティカルズも吸入剤を開発していたが、優先度が下がったとして開発中止した。

 日本新薬は核酸医薬以外のコロナ治療薬開発も検討中。肺動脈性肺高血圧症(PAH)などの治療薬として販売している「ウプトラビ」には抗血栓症作用があり、とくに血栓症リスクが高いコロナ重症患者に有効な可能性がある。米国で今年度中の治験開始を目指す。同国では元々、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)グループと開発・販売提携している。ほか自社創製品のJAK阻害剤2剤も、免疫暴走による重症肺炎などに対して開発を検討する。(赤羽環希)

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