大手に続き、中堅・中小メーカーの間でもワクチン接種に用いる注射針、シリンジの国内生産機運が高まってきた。車載電装部品や医療機器などを手がけるASTI(アスティ)は、薬液の無駄を減らせる注射針・シリンジの製造体制を整える。注射針・特殊針メーカーのタスク(栃木県栃木市)も、増産投資を行う計画だ。新型コロナウイルスワクチン接種を控えた際のシリンジ不足の記憶も新たななか、政府も支援策を講じていく。

 アスティは薬液が余る注射器内の「デッドスペース」を減らし、薬液の無駄を従来の半分未満の10~20マイクロリットル程度にできる注射針とシリンジを開発、生産する。約1億円を投じて、都田工場(浜松市北区)に設備を立ち上げる。能力は年120万本程度を予定し、1年以内の上市を目指す。

 同社は新規事業の一つとしてメディカルデバイスの事業化に取り組んでいる。これまで蓄積してきた微細成形技術や組立技術、材料技術などを駆使し、例えばプラスチック射出成形による樹脂製マイクロニードルを開発している。昨年9月には第2種医療機器製造販売業許可を取得するなど事業体制の構築も図る。

 タスクも注射針とシリンジの製造を拡大する計画。既存の製品のほか、新製品の開発も視野に設備投資を進めたい考え。具体的な内容は今後詰める。

 1974年創業の同社は注射針や生検針、骨髄穿刺針などを手がけている。今年2月には薬液のロスを減らす新たなタイプの注射針の国内認証を取得。新型コロナウイルスワクチン接種向けにも提供している。

 政府もこうした各社の取り組みを後押しする。経済産業省は、今般、「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」の2次公募結果を公表したが、このうち、3件はワクチンの注射針・シリンジ関連。両社ともに支援対象で、今後、経産省からの支援を受けながら、国内生産・供給体制を敷く。

 一方、大手メーカーによる国産化の取り組みも結実してきた。

 テルモは米ファイザー製ワクチンを1瓶から7回接種可能な特殊注射器「FNシリンジ」を4月から提供。甲府工場(山梨県昭和町)で製造し、21年度で2000万本の生産を予定している。

 ニプロも5月から注射針があらかじめ埋め込まれている「ニプロVAシリンジ」を発売している。ファイザー製ワクチンを1瓶から7回接種できる。国内では大館工場(秋田県大館市)から供給している。(堤洸士郎)

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