理化学研究所(理研)などの研究グループは、1滴の血液から新型コロナウイルスの複数株に対する抗体産生量の程度を迅速に測定するシステムを開発したと発表した。同システムを使用することで、新型コロナワクチンの接種効果を即座に精密検査することができる。今月末から9月初旬にかけての間に抗体量の測定サービスを開始する。現在、パートナー企業とサービス提供に関する協議を進めているという。

 同システムは、理研と千葉大学、理研発バイオベンチャーのアール・ナノバイオ(埼玉県和光市)が共同開発した。理研が日本ケミファと開発し、2020年に発売したアレルギー検査システム「ドロップスクリーン」に用いた技術を応用している。新型コロナウイルスの複数の変異株に対する抗体産生を一度に測定できる。今後、新たな変異株が出現した場合にも対応可能で、現在市中で感染拡大しているオミクロン株「BA・5」「BA・2.75」系統への対応準備も行っている。

 新型コロナウイルスを構成するヌクレオカプシドたんぱく質のほか、野生株と5種類の変異株のスパイクたんぱく質を固定化したマイクロアレイチップをカセットに装填し、試薬を用いて化学発光量を測定することで、各たんぱく質に対する抗体産生量を8分で検査できる。チップカセットを装置にセットしスイッチを押せば、血液の滴下、試薬との反応、洗浄、検出の工程が自動で進み、検査時間の短縮につなげた。

 通常、抗体量を定量評価する場合、500マイクロリットル程度の採血が必要だが、今回のシステムでは指先から5マイクロリットルの微量血液を採取すれば定量評価でき、被検者の負担も小さい。

 ワクチン開発を行う研究機関をはじめ、クリニックや大病院での使用を想定。まず測定を請け負うサービスを近くスタートする。システムの販売については、現在協業先を探索しながら検討を進めているが、すでに一定の体制を整えているとしている。

 検査データを集積すれば、適正なワクチン接種時期の設定や変異株対応ワクチン開発の必要性の判断、疫学調査に基づく感染状況の予測などに利用できると期待される。

 今回のシステム開発に関する研究内容は、2日付で科学誌「アナリティカル・サイエンシズ」オンライン版に掲載された。

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

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