産業機械メーカー、プラント関連企業などが新型コロナウイルス対策用の新製品・新システムの開発を進めている。各社は優れた独自技術を駆使して新型コロナ対策関連の製品を開発、さまざまな市場および顧客ニーズに応えている。2020年は世界的な景気後退で設備投資が低迷し、産業機械市場は急速にシュリンクした。新型コロナの収束がなかなか見いだせないなか、各社は今後、ウイズコロナ、アフターコロナ時代にあった「安全と安心」をキーワードに新しい市場を開拓している。

 <三菱重工 クリーンエアシェルター 医療機関向け陰圧仕様>

 三菱重工業は、新型コロナの感染拡大で病床ひっ迫が続き業務負担が増している医療機関向けに陰圧クリーンエアシェルター「Me-CAS」を開発し、販売を始めた。内部を大気圧より約3パスカル低い状態に維持し、医療用フィルターを備えた排気装置でシェルター内部からのウイルス流出を防ぐ。

 開発品は、三菱重工グループの原子力関連技術を使ったクリーンエアフィルターがベース。医療現場のニーズに合わせシェルター内部を陰圧仕様に変更した。展張から据え付け完了まで約5分ですむ。重量は約50キログラムと軽量で、コンパクトであることが特徴だ。

 医療用HEPAフィルターを備えた排気システムの採用により、1時間当たり6回以上の換気ができる。新型コロナ感染の疑いがある患者のPCR検査や、診察および発熱者の待機所など、一時的な隔離ニーズに応える考え。

 三菱重工サーマルシステムズは、酸素・尿素製剤処理と紫外線発光ダイオード(UV-CLED)照射により新型コロナを除去・不活性化できることを確認した。空間に漂うウイルスの除去と、エアフィルターに捕捉したウイルスの不活性化は、感染制御実現の可能性を示す新技術といわれている。北里大学大村智記念研究所との共同研究で実証した。今後は密閉チャンバー型実験装置を開発し、引き続き検証を行っていく。

 <川崎重工 移動式自動PCR検査装置 コンテナ内に一式完備>

 川崎重工業は、医療従事者を感染リスクから守る目的で、ロボットによる移動式自動PCR検査システムを開発した。2月には国内初となる自動PCR検査システムを藤田医科大学(豊明市)構内に設置し、サービス提供を開始した。

 同サービスは、川重が藤田医科大学で採取した検体のPCR検査を実施して検査結果を返し、結果判断を藤田医科大学が行う。1日当たり最大1500検体の検査ができる。本格稼働に合わせ、最大4000検体まで拡充する計画だ。

 この移動式自動PCR検査システムは40フィートコンテナにパッケージした。多くの人が集まる場所に簡単に移動できることが強み。さらに台数の増減により、検査所用数に応じ柔軟に対応できる。

 特徴は、80分以内での検査実現に加えロボットによる無人化・自動化で、医療従事者の負担軽減に役立つ。遠隔監視により運用を簡素化し、ロボットによる大量検査が可能だ。省スペースなうえ、コンテナのため移動が自由できる。

 <IHI HEPA空気清浄機 感染予防向け5種増産 独自オゾン処理除菌水開発>

 IHIとグループのIHIアグリテックは、新型コロナ感染対策として昨年、オゾン仕様のHEPAフィルター付き空気清浄機などの大幅な増産体制を整えた。ウイズコロナ、アフターコロナの標準的な予防措置となる5機種について増産体制を強める意向。

 増産する主な機種をみると、HEPAフィルター付き空気清浄機「オゾンエアクリアeZ-100」の生産能力は5倍増の月間500台。それでも注文に応じ切れないため、さらに倍増設に踏み切った。また、適用床面積が広い空気清浄機「オゾンエアクリアJS-7000」は月産70台に増強した。車両用可搬式「オゾンエアクリアプラスDH-5D」は月産50台体制を組む。

 このほか、IHIとIHIアグリテックは、ファインバブル技術によるより安全なオゾンガス処理除菌水「リクリア」を開発し、除菌水市場に参入した。公衆衛生意識が急速に高まるなか、日常生活における除菌処理の機会が格段に増えている。オゾン水は残留性がなく安心して使えることが特徴だが、その一方でオゾンガスがすぐに分解するため保存ができず、製造装置がある場所でしか使えないことが課題だった。

 今回、IHIは独自のファインバブル(ナノサイズの泡)製造技術を用い超高濃度オゾンガスを水に溶解、高い除菌能力を保持したままボトルでの長期保存を実現した。これにより、流通が可能な新しい除菌水の開発に成功した。刺激臭がなく手荒れの心配もない。

 <日立造船 業務用室内空気殺菌装置 深紫外線照射し不活化>

 日立造船は、室内の浮遊ウイルス対策向けに業務用空気殺菌機を開発、販売を始めた。多くの人が集まる場所での飛沫感染対策向け。空気をファンで吸い込み深紫外線LEDを照射することで、微生物や病原性ウイルスを殺菌・不活化させる。浮遊ウイルス試験では25平方メートルの空間を19分で99・9%不活化し、ウイルス抑制効果を発揮した。これは床面積100平方メートル換算で最大風量条件の場合、インフルエンザウイルスを3時間以内に99・9%不活化できる能力に相当する。

 特徴は、深紫外線LEDでウイルスを不活化しHEPAフィルターで捕集し外部に排出させない2重構造。約2年間24時間連続で稼働する。

 <アズビル パンデミック対応空調設備 等圧・陰圧 切り替え可能>

 アズビルは、新型コロナ対策向けに最適な病院向けハイブリッド型パンデミック対応空調システムを提案している。病院内の空調機器を感染症対応病床向けへスムーズに切り替え可能だ。現在、全国の病院からの問い合わせが急増している。

 アズビルのパンデミック対応空調システムは、感染症対応病床空調への切り替えがパソコン操作で行える。通常は「等圧」の部屋として使い、感染拡大が発生すると「陰圧」に切り替えてウイルスの拡散を防ぐ。

 この切り替え作業には風量制御バルブ「インフィレックスVN」を使う。高精度で高速応答性に優れ、院内空気感染リスクを抑制する。アズビルはインフィレックスVNを20年ほど前に開発し、主に化学企業、製薬企業、大学などに展開してきた。近年は、インフルエンザ対策用として一部の大規模総合病院向けで実績があるものの、まだ少ない。今後は病院向けを新しい柱に育成する。

 このほかアズビルは、化学会社向けにバッチプロセスオンライン異常予兆検知システムを積極提案している。近年、ファインケミカル製品、機能性樹脂など化学プラントの現場では、品質安定化やトラブル防止、ベテラン技術者の技能伝承が課題となっている。同システムは19年に市場投入し順調に実績を積み上げている。今回、新型コロナ対策や遠隔監視ニーズ向けに有効であることが認知され、評価が高まっている。今後は化学、製薬などに攻勢を強める。

 <横河電機 リモートエンジニアリング AR技術使いサービス>

 横河電機は、新型コロナ対策として国境を越える移動や出張が困難となるなか、リモートエンジニアリングによるサービス充実を図っている。すでにリモートFAT(工場受入検査)やコミッショニング(機器の立ち上げ試運転)などの受注が順調に増加している。

 エキスパートである横河電機のサービス員と、海外にあるプラントの現場作業員をオンラインで結び、拡張現実(AR)技術によるリモートサービスを実施。ハード、ソフト、インテグレーションなどの信頼性が評価され、カナダ、オマーン、イラクなど海外プラントで採用された。

 当面、世界的な移動制限が継続される見通しのため対面型ビジネスが困難になるなか、横河電機はリモートエンジニアリングの受注が順調に拡大すると予測している。遠隔地にあるプラントにおけるリモート復旧支援、リモートモニタリング・分析、リモート運転支援など、多様なニーズに応える。

 <大成建設 自律走行型多目的ロボット 病院運用の課題解決へ>

 大成建設は、感染防止に効果的な病院向け自律走行型の多目的ロボット「temi」を活用した実証研究を行っている。名古屋大学医学部付属病院メディカルITセンターなどと共同で実施中。パソコンやモバイル端末を利用して、動作を指示できる人とロボットとのコミュニケーションを緊密にし、効率的な運用を行う。次世代型病院(スマートホスピタル構想)の実現を狙う。

 国内の医療現場では、後期高齢者の急増、病院スタッフの人手不足で、感染予防の新しい技術やシステムの開発が急務となる。多目的ロボットを導入し病院運用の課題解決に役立てたい意向だ。実証では、感染症予防、安全確保への対応、ICU内に看護婦と病院内外の医師との遠隔コミュニケーションツールとして活用する。書類など軽量物の搬送にも対応する。当面検証を継続し、医療の質向上に貢献する。

 新型コロナの感染拡大は経済界、産業界に甚大な影響を与えた。とくに世界的な設備投資意欲の減退は産業機械メーカー、プラントメーカーの業績を直撃している。各社とも設備投資がどのタイミングで回復するのか見極めできず、経営計画が立てられない状況。

 そうしたなか、ウイズコロナ、アフターコロナまたはニューノーマルといわれる時代に入りつつある。今後の情勢は極めて流動的だ。しかし、世界的なパンデミックにあって確実な対策は、顧客からの「安全と安心」ニーズにどう応えるか。幸い産業機械業界は長年の蓄積技術を活用することが可能だ。なかでも、リモートエンジニアリングなどは時代の要請にマッチした取り組みとして、一段と普及拡大が見込まれる。

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