田辺三菱製薬はワクチン事業の世界展開を進める。カナダ子会社メディカゴが開発した新型コロナウイルスワクチンは、グローバルに供給可能なワクチンとして薬事手続きや販路などを準備する。世界初の植物由来ワクチンの日本生産も検討し、次のパンデミック(世界的大流行)などに備える。田辺三菱製薬が国内供給している小児向け混合ワクチンなども海外展開し、田辺・メディカゴの両輪で世界のワクチン市場に進出する。

 田辺三菱製薬とメディカゴが最優先で開発しているのが、メディカゴが創製した新型コロナワクチン。今月16日にカナダで承認申請し、日米でも申請を予定している。日本では国内の臨床試験が来年2月に終了し、来春の申請完了を目指す。まず18歳以上に対する初回免疫として手続きするが、臨床的には追加接種ワクチンとして主に使われるとみており、追加接種用や小児向けの臨床試験も始める。

 英国や世界保健機関(WHO)などとも薬事手続きに向けた協議を開始。欧州向けも検討する。田辺三菱製薬の多田俊文ワクチン室長は、「カナダで承認されれば、世界初の植物由来ワクチンとしてお墨付きを得る。これをトリガーにしてワクチンを世界展開できるプラットフォームを確立していきたい」と話す。感染状況が比較的安定した「エンデミック」フェーズになれば、ワクチンの販路が政府の買い上げから通常の商業流通に切り替わるとみている。これに備えて各国・地域で自社販売か、現地企業と提携した販売体制も準備していく。

 中南米や北米などで2万4000人が参加した臨床試験では、すべての変異株を対象にした発症予防効果の有効率が71%。デルタ株は同75%、ガンマ株は同89%だった。武漢株の感染例はゼロ。「武漢株ベースのワクチン製剤でも、他の変異種に一定の有効性があることが分かった」(多田室長)と評価し、オミクロン株にも同様の効果があるかを検証する。同株に対応した改良製剤の必要性なども見極める。

 ワクチンの商用生産拠点は現在、米ノースカロライナ州の工場だけ。加ケベックで新工場を建設中で、24年以降に完成すれば年最大10億回分の供給も可能になる。政府との供給契約が決まっているのはカナダ向けの7600万回分のみだが、他の国・地域などとも一定量以上の供給が決まれば増産対応を検討する。

 将来、日本に生産拠点を置く可能性はあるとする。次に新たな感染症が流行したときはいち早く国内で生産、供給できる体制を準備する。「すべてのプロセスではなく、部分的に外に出したりして、日本で行う可能性はあるだろう」(同)としており、技術移転しやすい工程から国内導入する可能性がありそうだ。

 メディカゴのコロナワクチンは植物を使って生産する。たばこ属の葉にウイルスの遺伝子を組み込んで栽培し、成長した葉からワクチンの有効成分を抽出して作る。過去に開発したインフルエンザワクチンの場合、生産にかかった期間は約8週間で、従来のワクチンより大幅に短い。コロナワクチンでは生産能力や収率を上げるなどしてさらに短縮したい考え。

 田辺三菱が日本で行っているワクチン事業もグローバル化する方針。阪大微生物病研究会(阪大微研)と提携し、国内の定期接種・任意接種向けワクチンを供給してきた。今後は子会社の販路などを活用し、小児向け混合ワクチンや高齢者向けワクチンなど国内ブランドの製品を海外展開していく。(赤羽環希)

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