米臨床査薬メーカーのオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックスが新型コロナウイルス感染症の抗体検査薬について日本の大学や医療機関と共同研究を始めている。抗体保有率の把握は社会・経済活動を正常化する施策立案に生かせる一方、厚生労働省が薬事承認した製品はまだない。日欧米同業との開発競争は激しく、臨床的意義をいち早く見いだし、市場で先行したい考えだ。

 まず北海道医療大学と共同研究を実施し、先週から検体収集を始めた。クラスター感染が発生した札幌市の介護老人保健施設の職員などを対象に1000検体以上の抗体検査を行い、抗体保有率や陽性患者の抗体価の推移などを調べる。これ以外にも複数の大学や病院と共同研究を開始し、他社品との性能比較も検討するという。

 オーソの抗体検査薬は、感染最初に出現する「IgA抗体」、感染中に発現する「IgM抗体」、回復期の「IgG抗体」の3つを検出する試薬と、IgG抗体のみを検出する試薬の2種類ある。全自動免疫検査機器「ビトロス」を用いて測定し、性能試験ではPCR検査との判定一致率が98・5%以上、IgG抗体検出試薬の症状発症から16日以降の抗体陽性率は90%と高い精度を確認した。

 国は抗体検査の活用策を探るため、6月初旬に東京、大阪、宮城の3都道府県で約8000人の検査を実施。この時は米アボット、スイス・ロシュの抗体検査薬が使われ、2社は性能評価の蓄積で先行したかたちだ。日本企業ではシスメックスが国立がん研究センターなどと連携して抗体検査薬の性能評価に取り組む。非感染者も対象となる抗体検査は市場が大きいだけに、開発競争は激しい。

 感染の判定に用いるPCR検査や抗原検査について厚労省は薬事承認を加速させているが、抗体検査については臨床的意義の研究途上で薬事承認する段階ではないとのスタンス。検査薬各社は研究を積み上げ評価を蓄積しながら薬事申請の可能性を探っている。オーソは米国でも同様の共同研究を拡充しており、臨床的意義を見いだした段階から薬事申請に取りかかる方針だ。

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