●…コロナ後の世界でそれまでと変わるもの、変わらないものは。

 「グローバル化の定義が非常に難しくなってきている。製造業においてはより安いコストで作れるところへ進出することが一つの定義だった。それまでの地産地消から、安いところで作って輸送することがスタンダードになっていった。ところが(新型コロナで)日本一国ですべては調達できない、必需品であっても輸入に頼らざるを得ない状況を突きつけられた。そうなると、今までグローバル化と思い込んでいたことが本当にそうなのか。分業化はウィンウィンがベースのはずなのに、ある意味では相手にとって脅威を与える武器になっている。今後、政治対立やポピュリズムがより先鋭的になれば、経済の、とくに製造業のブロック化が進んでいくという懸念を持っている。素材産業はサプライチェーンの姿を見直さなければならなくなる」

 「他の気づきとして、在宅勤務でそれほど人が来なくても本社などの事務所は回ると分かった。しかし工場はそうはいかない。デジタルトランスフォーメーション(DX)が一つのキーワードで、製造業ではスマートファクトリーが大きなターゲットになる。従業員の安全確保を考えると、極論すれば無人でも工場が動くぐらいのことが必要ではないか。人口が減って人手不足になることを嘆くよりも、DXが出てきたことでAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を駆使して情報の収集作業を機械に任せて、出てきた情報データを使ってクリエイティブな仕事をすることが、人間の大きな役割になっていかなければならないのではないかと思う」

●…AGCとしての役割に変化は。

 「世の中に必要な素材を提供することを社是とし、ガラス以外にも化学やセラミックス、電子と広げてきた。われわれのポテンシャルを使って世の中に必要なものは何かと考え、それを戦略事業として成長させ、成功している。これは変わらない。より安全、安心、快適な世の中が求められており、素材やソリューションを通じて貢献することが当社の存在意義だ」

 「今回のコロナ禍は、必要とされるものとそうでないものを明確にした。製造業でもう一回需要構造の変化が起きるかもしれない。生活が豊かになると、食べ物にしても何にしても浪費する。こうした(コロナ禍の)状態になると不必要な外出もなくなり、浪費はしなくなる。限られた資源やエネルギーの有効性を考えるうえで、消費スタイルを見直すきっかけになった」

 「それから、株主価値の最大化がいままでベースだったが、企業自体が存続するかというところまで立ち戻って考えると、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)は極めて重要な視点になる。当社も大きな課題を抱えていて、ガラス部門を中心に大変大きなエネルギーを消費している。これをいかに削減していくか、効率よくするかが課題」

●…ガラスの生産能力を落とせばエネルギー消費は減るが、それ以外の手だてはあるのか。

 「難しいところで、当社が生産を落としたらその分また誰かが生産を増やし、世界規模では一緒になってしまう。根本的にエネルギー消費を減らす製法を開発できるかどうかにかかっている。業界全体の大きなテーマだ」

 「これからは環境問題をベースに、環境負荷がどうなのかという観点で投資を考えていく時代に入っていくのだろう」

●…今後はポートフォリオや製品群をどう対応させていくのか。

 「一般的に、落ち込んだ自動車の販売量が戻ってくるのは2024年ぐらいといわれている。それでも企業として成長していかなければいけないので、市況や構造変化に対応できる、影響を受けにくい事業をより進化させる。具体的にいうとライフサイエンスは安定的に成長する。ポートフォリオのうえではいままで取り組んできたこうした戦略事業を拡大し、その比率をさらに高めていく」

 「新型コロナの発生で、消毒用の次亜塩素酸ソーダやポリカーボネートシートのパーティション利用など既存製品も重要な役割を果たしている。ライフサイエンスではワクチンや治療薬の受託製造が具体的に進んでいく。世界に向け商業生産できる当社の強みが大きく発揮できる。バイオビジネスで提供できる価値は何かと追求してきた結果が収益につながっており、ぶれない社会的なポジショニングを事業の根幹に置いていることに自信を持っている」

●…5G関連で有望な素材を持っているが、供給体制について対応が必要となる可能性は。

 「今はとくにない。例えば5G用のガラスアンテナは、建築用ガラスだけでなくて自動車用のいわゆるコネクテッドのカーコンセプトにもつながっているので、日本を中心に技術開発している。これをマーケットの広がりに従ってどこで作るか、これから考えていく。基本的な考えは地産地消で、中国は中国、米国は米国、欧州は欧州というスタイルになっていくのでは」

●…需要構造に変化の兆しがあるなか、足元で収益が悪化しているガラス事業の方向性は。

 「ガラスの事業構造は再考していかなければならない。汎用な部分と高付加価値な部分で対応は変わってくる。いずれにしても、ボリュームを増やすことでコストを下げて利益を稼いできた一般的な建築用ガラスのスタイルは通用しない。そうなると例えば、企業間連携で生産能力を縮小して最適化していくといった選択肢が出てきてしかるべきだ。セントラル硝子との(国内建築用ガラス統合の)話も、国内が大変厳しいので協力し合って効率性を高めていく必要があるということで合意ができており、具体的な進め方について両社で検討している」

●…東南アジアを中心に供給体制を築いているクロールアルカリ事業に影響はあるか。

 「基本的には変わらない。カ性ソーダと塩素のバランスを取れないと事業として成立しないので、新規参入者がなかなか入ってこられない」

 「はっきりしているのは、需要の成長はGDPの伸びに極めて密接にリンクしていること。東南アジアの経済成長はしばらくはある程度の成長率で伸びていくだろうから、分かりやすい需要の拡大を期待できる」

●…コロナ危機を受けて、経営者として社内外に発信したいメッセージは。

 「われわれは何かが起きたときに対応する是正措置はとってきたが、これから先は見えない脅威に対し、会社を含め個々人も日頃から予防措置をとっていかなければならない。また、こういう時に改めて企業の真価が問われる。自分たちが社会にどのような貢献ができ、製品がどれだけ必要とされているのかを冷静に再認識するべきだ。私心を捨て、社会の安全と復興に対して一致団結して自分たちのやるべきことを貫いていくことが必要だ」(聞き手=佐藤豊編集局長)(随時掲載)

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