米メルクは、新型コロナウイルス感染症治療薬として開発中の抗ウイルス剤「モルヌピラビル」について、感染初期の患者を対象にした第3相臨床試験(P3)を日本でも開始する。同剤は在宅患者でも服用可能な経口剤で、富士フイルム富山化学の「アビガン」と同じ作用機序を持つ。5日間の服薬でウイルスが消滅したデータがあり、コロナ治療の「ゲームチェンジャー」になり得るとして期待している。日本の研究開発を統括する白沢博満MSD日本法人上級副社長が、20日に開催した定例記者会見で明らかにした。

 米メルクは先週、入院していない患者に対するモルヌピラビルの国際P3の開始を発表した。症状が出てから5日以内で、軽度~中等症の患者約1850例を組み入れる。約1カ月間で重症化・死亡した患者の割合などを評価し、9、10月に最終結果が出る予定。海外では年内の緊急使用申請などを目指す。今月末から各国で症例登録に着手し、日本も参加する。日本では、健康成人に投与して初期の安全性などを確かめる国内P1も今月から行っている。

 モルヌピラビルは新型コロナなどコロナウイルスの増殖を阻害するRNAポリメラーゼ阻害剤。白沢副社長によると、感染初期で自宅療養している患者に対する有望な治療薬候補という。P2では、5日間の投与でウイルスが100%消滅するデータを得た。同副社長は、「いわゆるゲームチェンジャーになるかもしれない。かなり高い期待が持てる」と話し、変異株についても「(同剤の)メカニズムから効果が期待できる」との認識を示した。濃厚接触者に予防投与する臨床試験も行う。

 新型コロナ治療では、大村智・北里大学特別栄誉教授が発見し、米メルクが製品化した寄生虫病治療薬「イベルメクチン」も注目され、臨床研究などが行われている。白沢副社長は、企業として同剤の開発や薬事申請を考えるかについて「会社としては合理的ではないと判断した」と話し、現時点で開発計画はないことを明らかにした。

 MSD日本法人の20年売上高は前年比7%減の3481億円。コロナ禍の受診抑制や特許切れによる販売減、主力の抗がん剤「キイトルーダ」などの薬価引き下げが響いた。同剤は販売数量では同3割増えたが、同年だけで2回、市場拡大再算定の薬価引き下げを受けた。今年1月に就任したカイル・タトル新社長は会見で、販売増加が売り上げに反映されていないと指摘し、「投資のリターンがなければビジネスとしての持続性は損なわれる」「イノベーションが正しく評価され、日本が引き続き重要な市場として見られるような環境作りをしたい」と語った。

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