国立国際医療研究センター(NCGM)の研究グループは、たばこを過去に吸っていた場合、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが高くなることを明らかにした。心血管疾患やがん、呼吸器疾患といった喫煙由来の疾患になりやすく、重症化につながっている可能性を突き止めた。重症化予防には、喫煙歴を持つ患者を注意深く観察する必要があると研究グループでは呼びかけている。

 喫煙者と新型コロナウイルス感染症の重症化リスクをめぐり、さまざまな研究が出ているものの、「ある」「ない」と結果が分かれている。併せて、過去に喫煙していた場合、現在も喫煙している場合で重症化リスクが異なるとの報告も存在する。ただ、これまでの研究では対象者が少ない、過去と現在の喫煙状況を分けて調査していないといった課題があった。
 そこで研究グループは、日本全国の同感染症入院患者情報をデータベース化したレジストリを活用。2020年1月3日から21年2月26日にまで入院していた1万7666人の患者データを解析した。非喫煙者、過去喫煙者、現在喫煙者、不明の4グループに分けたうえで、年齢や性別、入院時期、併存疾患について調査を行った。

 ◆現在喫煙者上回る

 4グループのうち、最も重症化リスクが高かったのは過去喫煙者。男女ともに非喫煙者らと比較すると、リスクが有意に高まり、現在喫煙者も上回っていた。さらに喫煙の有無と併存疾患の関連をみると、非喫煙者に比べて、過去喫煙者は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などを持つ割合が高かった。
 併存疾患があると新型コロナウイルス感染症の重症度が高まることが分かっている。そのため、COPDや心筋梗塞などの併存疾患を持つ割合が高い過去喫煙者では重症化リスクも高まってしまっている格好だ。

 ◆併存疾患で禁煙か

 過去にたばこを吸っていた場合の方が重症化リスクが高くなる理由に関して、研究グループは、併存疾患によって病気になったことをきっかけに「禁煙した可能性が高いからではないか」との見方を示す。新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを高める併存疾患があるため、禁煙に踏み切ったとみられ、その結果、過去喫煙者のリスクも高まったかたちとなる。だが、今後、現在喫煙者も併存疾患を発症する公算が大きいことから、リスクであることに変わりはないともしている。
 研究をまとめたNCGM教育研修室の松下由実室長は、「今、喫煙していても将来のリスクは高める可能性は高い」と指摘。禁煙は重症化のリスクを低減する重要な要素だと強調した。

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