「ポストコロナ」、「アフターコロナ」という言葉を目にする機会が多くなった。新型コロナウイルス感染症の流行は現在だけでなく、未来にも強い影響を及ぼすとの見方が強い。産業の未来を切り開く研究開発の現在と今後のあり方について新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の石塚博昭理事長に聞いた。

■研究開発の現状と今後をどう認識していますか。

 「今般の新型コロナウイルス感染症拡大による経済活動の停滞は、貿易やサプライチェーンを通じて世界全体に波及している。国際通貨基金(IMF)によると、世界大恐慌以来、最悪の景気後退を経験する可能性も指摘されている。リーマン・ショック時の産業部門の研究開発投資動向をみると、日本では企業の研究開発投資やスタートアップへの資金供給が急減し、その回復が欧米諸国に比べ遅れたことで、その後数年間に及ぶイノベーションの停滞を生じさせたとされている」

 「事態収束後の動向として、短期的には急激な環境変化を敏感に捉えつつ、国をあげて迅速かつ適切な対策を進めていくこと、中長期的には今回浮き彫りになった新たな社会課題の解決も含め、コロナ後の社会構造変化を見据えて取り組むことが重要となる」

■具体的にどのような研究が社会から求められるのでしょうか。

 「サプライチェーンの強靱化とリモートの加速化に向けた取り組みがあげられる」

 「グローバルサプライチェーンの寸断リスクが顕在化しているなかで、国内製造事業者による生産拠点の国内回帰やアジア諸国などへの多元化などが喫緊の課題となっている。その解決に向けて、サプライチェーンの強靱化に向けた生産拠点整備、技術開発・実証などが重要となってくる。また、モノの調達・生産・流通・販売の各工程においても、自動化、分散化が進んでいくと考える。そうしたなかでは分散型エネルギーシステムなどの技術も活躍するとみている」

 「リモートの加速化においては産業のあり方だけでなく人々の生活スタイルや考え方をも大きく変えようとしている。集約型、対面型が主流であった『医療、福祉』『教育』『サービス』などの分野、また、その基盤となる人々の『働き方』『過ごし方』について、現下の事態への対応として、各所でオンライン化が急速に進められている。デジタル技術が最大限活用された新しい社会システムは、Society5・0で示された将来像の一つであり、技術導入や基盤整備に一層の進展が求められるだろう」

■NEDOとしての方針は。

 「今年度の補正予算から経済産業省・NEDOとして必要な対策に取り組む。製造工程間でのシームレスなデータ連携や企業間・拠点間での連携を可能とするセキュアなデータ基盤の開発などデジタル技術開発を新たに支援していく。また、サプライチェーン状況の把握精度向上を目的に、衛星データから工場などの稼働率を推定する解析サービスの開発を行う中小・ベンチャーなどを支援する」

 「材料分野でも国際的に生産拠点の集中度が高いレアアースの代替・使用量低減、供給源の多様化に向けた技術開発・実証を行い、グローバルサプライチェーンの強靱化につなげる」

■これからNEDOが果たすべき役割は。

 「世界中が感染防止策を継続しつつも社会経済活動を止めないために、テレワークやリモートサービスなどの活用が加速している。一方で、急激な変化に人もインフラも対応しきれていない。今回の危機をチャンスに転換し、Society5・0実現の加速や分散型エネルギーシステムの構築などにおいて、日本の優れた技術シーズを社会実装にまでつなげることが必要。NEDOはイノベーション・アクセラレーターとして、産学官の強みを生かした研究開発成果の最大化と社会実装を推進していく」(聞き手=橋本隼太)

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