【バンコク=岩﨑淳一】新型コロナウイルス感染再拡大を受けて、タイの化学業界は年末年始対応に追われた。ラヨン県の石油化学工場で生産設備の運営担当者に宿泊施設を用意し、宿泊先と現場を往復するだけの体制を整えた企業もある。定期修理を予定していたメーカーは延期を決定した。各社稼働を継続しているが、社会・経済活動の一部制限で回復基調にあった景気が再度後退する懸念もあり、先行きに対する不安感が高まるなかで新たな1年が始まった。

 タイは昨年4月下旬以降、新型コロナの市中感染をほぼゼロに抑えてきたが、12月から急速に拡大している。1日当たり新規感染者が700人を超える日もある。政府は4日、感染者が多い首都バンコクなど28都県に商業施設の時短営業や学校の閉鎖などを命じ、各都県の判断で措置がとられている。

 石油化学産業が集積するラヨン県も対象で、同県は県境をまたぐ移動制限などを厳格化している。化学・素材大手のサイアムセメントグループ(SCG)は「生産設備のオペレーターに宿泊施設を提供している」(同社)。該当者を隔離して外部との接触を徹底して避け、業務に従事する体制に移行した。

 タイ石油公社(PTT)グループで石油精製・石油化学大手のIRPCは部門間の接触回避や現場スタッフの健康状態の把握など感染拡大防止策を実施し、24時間操業を続けている。状況が悪化した場合に備え従業員用隔離施設も準備しているという。

 同県に工場を構える日系化学企業も、製造や保全のチーム間で接触を防ぐなど対応している。また、1月に定修を予定していたメーカーは開始時期の先延ばしを決めた。これにより外部からの作業員受け入れを抑制する。

 景気後退に懸念も

 バンコクでも一部の娯楽施設の閉鎖や夜間のレストラン内飲食禁止といった措置や、民間企業に在宅勤務の協力要請が発出されている。感染急拡大で状況が急変したが、20年4月頃の第1波の時の実績があり、工場の操業や事業運営に大きな混乱は生じていない。

 ただ、経済への影響には懸念が広がる。

 タイ経済はGDP(国内総生産)の20%程度を占める観光業が入国制限で外国人観光客を受け入れられず打撃を受けているものの、個人消費は景気刺激策もあり20年下期から回復基調にある。タイ中央銀行は昨年12月、想定を上回る個人消費の回復などを背景に20年の成長率予測を従来のマイナス7・8%から同6・6%に上方修正した。

 21年は、さらなる改善が期待されていたが、回復途上で新型コロナウイルス感染拡大の第2波が発生。社会・経済活動の制限による景気回復遅れへの警戒が強まっている。

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