【上海=石田亮】上海の街路を自由に歩ける日がくるのはそう遠くないかもしれない。17日、一部の中国メディアが新型コロナウイルスに対するロックダウン政策の転換を報じた。上海市政府は隔離区域外での感染拡大を20日までにゼロにする「社会面ゼロコロナ」へ方針を緩和するようだ。連日2万人を超える新規陽性者の大半は患者の隔離区域内で発生しており、区域外は1000人に満たない。18日午前時点でいまだ政府からの正式発表はないものの、中国メディアの報道が事実であれば、対象が絞られることで早期に「ゼロコロナ」が達成され、経済の正常化に向けて大きく前進することになる。

 <事業活動正常化へ>

 16日、上海経済・情報化委員会からコロナ禍での生産活動の再開に関する指導要領が発表された。企業側への要求として、感染防止・生産操業を担当する専門チームの設立や管理責任者の選任などが必要になる。市内に生産拠点を持つ日系メーカーの総経理は「細かいルールにすべて対応するのは困難だが、遅れを取り戻すため全力で取り組む」と前を向く。

 社会面ゼロコロナにより、隔離地域外での感染者数がゼロになれば、徐々に小区の出入りも自由になると思われる。昨年末から今年にかけてロックダウンしていた西安市でも同様の政策を採用したようで、上海市でも適用される可能性は高い。

 工場などの生産拠点では、21項目にわたる細かいルールが設けられた。区域ごとの防疫対策、原材料の搬入時には、専用経路の固定の配置場所を設け、製造エリアと一定の距離の確保が必要になるほか、14日間以上の防疫物資の備蓄が推奨される。

 <小区から外出制限>

 上海市は9日、市内の小区を「封控区」「管控区」「防控区」の3つのエリアに分けて、段階的な管理を行うことを発表した。基準は過去数日間の陽性者の発生状況による。最も厳しいエリアが封控区となっている。

 11日、上海市政府から約7000の地区で、外出制限を解除するとの発表があった。本紙記者が居住する小区もその一つで、2週間にもおよぶ封鎖生活から解放されると安堵した。しかし実際には小区からの出入りは相変わらず禁止され、生活はほとんど変わらなかった。スーパーでの食料調達はできず、デリバリーも届かない。水や食料、薬などは同じマンション内で融通しながら、何とか日々を過ごしている。

 日系企業の工場が集積する金山区内の小区では、封鎖が解除された喜びから、小区から住民が一斉に外出し、大混乱になったという。その後、同エリアでは1家庭につき1枚の通行証が配布、1日1回のみの食料購入が可能になった。

 <駐在員交代に課題>

 今年は本来ならば、多くの日系企業で駐在員の交代の年に位置づけられていた。2年以上前から一度も日本に帰っていないという駐在員も多く、先延ばしになっていた交代人事が動き出すタイミングだった。しかし今回のロックダウンで帰国・受け入れ方針が厳しくなり、出入国の処理に遅延が生じ、人員の交代が円滑に進まないのではないかと懸念を抱いている日系企業も少なくない。一方で日系のなかには、ロックダウンを契機に社員の帰属意識を高めようとする試みもみられる。4月分の給料を払いつつ、防疫一時金として現金を社員全員に一律支給した。在宅勤務が強いられるなかで、社員のモチベーション向上につながったという。

 <行き場のない怒り>

 政府サイドは市民の不満を解消するため、数々のストレス発散策を実施している。住民向けに音楽ライブの開催やテレビの有料番組を無料で放送するなどさまざまだ。弊紙記者が住むマンションでは、高額な鳥の丸焼きを格安で提供された。なかにはこうした施策に対し反発する住民もおり、行き場のない、怒りだけが募っていく。

 封鎖開始と同時に立ち上がった、マンションの管理者と住民によるチャットグループでは、日々PCR検査のスケジュールや食料・生活用品の共同購入への呼びかけなどが行われている。また住民同士で余っている物資を交換するなど、助け合いながら難局を生き抜こうとしている。

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

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