新型コロナウイルスの感染拡大がいち早く収束期を迎え、経済が立ち直りつつある中国。上海市や江蘇省など華東地域は日系企業の事業活動も正常化に向かっている。同地域を管轄し、日系企業の動向に詳しい日本貿易振興機構(ジェトロ)上海事務所の小栗道明所長に現状認識を聞いた。

◆…上海は以前と変らぬ日常を取り戻したように映ります。再びの感染拡大の可能性はありますか。

 「外出して、地下鉄など公共交通機関を利用し、レストランで食事をとるといった当たり前の日常が戻ってきた。予断は許さぬ状況だが、日々の生活に強い危機感を抱くような時期はもう過ぎた。プライバシーの問題を抜きにすれば当局は市民の動きをデジタルデータで完全に管理できている。もう一度感染が広まり始めたとしても、位置情報から人の動きを丸裸にし、日本でいうところの“クラスター”の発見と封じ込めが可能な状況だ」

◆…強烈な私権侵害にも映りますが、やはり徹底した移動規制や隔離措置が奏功したのでしょうか。

 「日本は今、緊急事態宣言を発して人との接触機会の8割削減、オフィス業務の在宅化などに努めているが、中国はまさにそれを実践してきたわけだ。春節期間を延長し、2月10日まで実に17日間も事業再開を認めなかったのは賢いやり方だ。2月は多くの人が8割以上の接触を削減しただろう」

 「日本の一部の報道をみると、強権的なやり方ができる中国だからこそ感染を封じ込められたという見方をしているが、必ずしも正しくないと考える。徹底した管理や監視はもちろん、それを順守し実践したのは国民の努力にほかならない。個々人が規制の意味を理解し、それを守った方が安全だと考えた。03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)時と比して当地の民度は確実に向上したといえるだろう。春節後も多くが消毒液を携帯して小まめに手洗いしている。豊かさが向上し、衛生観念も高まっている」

◆…ジェトロが華東地区を対象にまとめたアンケート(4月1~6日実施、710社回答)からは日系企業の活動の本格化がみてとれます。

 「2月半ばまでは半数程度だった事業再開率も、4月に入りほぼ100%の企業が6割に増えた。事業の阻害要因についても、当時は国内の物流や人手不足の問題だったが、今は需要減など外的要因に変わっている。面会や出張の解禁も増え、経済活動はかなりの程度、正常化してきたとるといえる」

◆…中国からの移転は進みますか。

 「アンケートにおけるサプライチェーンや拠点の変更計画の問いでは、製造拠点の有無にかかわらず約9割が変更ないと答えた。日本政府は中国一極集中から脱し、日本回帰やASEAN移転を促す姿勢を示すが、車やエレクトロニクスの主たる市場は中国だ。その重要性は不変だろう」

 「ただ、現在のように、日本からの人の往来が難しくなった場合に供給網をどう維持していくかは今後の課題だ。設備産業が象徴的だが、コアであるメンテナンス業務などで日本人が不可欠な場合も多い。中国でいかに稼ぐかを考えれば、日本回帰どころか、むしろ、今後は技術などの一層の現地移転を進めざるを得ないかもしれない」

◆…その意味で、駐在員不在の期間が続いたなか、その必要性や現地化の加速も議論となっています。

 「アンケートにおける稼働率上昇・低下の原因につての設問では、『日本人駐在員の不足・不在』との回答はサービス業で16%、製造業ではわずか8%に過ぎなかった。どれほどの駐在員が必要なのか、存在意義も見直されてくることになろう」(聞き手=但田洋平)

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