<8週間で体制確立>

 - 生産体制を極めて速やかに構築しました。

 「ドイツのハナウで、わずか8週間で確立できた。当社は世界でトップ3に入る医薬品開発・製造受託(CDMO)企業だ。同じ欧州に拠点を持つビオンテックと話を始めると、非常に早く規模を拡大しなければならないことが分かった。幸運にも当社はLNPとmRNA医薬品が将来的に実現することを予想していた」

 - どのような準備を進めていたのですか。

 「2011年にアメリカのアラバマ州バーミンガムで注射剤や非経口剤の製造設備を買収した。必ずしもmRNA医薬品のためではないが、ここで初めてLNPを生産した。16年にはカナダのバンクーバーを拠点とするLNPに特化したトランスフェラ ナノサイエンス社を買収した。ここで100種類を超えるLNPを作った。20年初めには「フィトコール」と呼ぶコレステロールを製造するウィルシャー・テクノロジー社を買収した。コレステロールもLNPの重要な構成要素となる。こうした製品と製造サービスの組み合わせによって、非常によいポジションを得ることができた」

 - 今後mRNA医薬品の成長を、どのように取り込んでいきますか。

 「mRNAは医薬品にまったく新しい世界を開き、それは非常に大きなものになる。これに対し当社では製品、サービス、技術の3つが揃ったソリューションを提供していく。例えば、製品として脂質やフィトコールがあり、サービスとしてバーミンガムとバンクーバーの拠点がある。技術にも注目していて、スタンフォード大学とmRNAや遺伝子治療のためのドラッグデリバリー・プラットフォームの開発で協力している」

<ワクチン以外にも>

 - 投資の方向性は。

 「当面は、既存の拠点を拡張し、機能を追加することに重点を置いている。ドイツでは生産能力を高めようとしている。バンクーバーでは初期段階のカスタム開発や製造サービスの能力を拡大する。バーミンガムでは、充填や仕上げなど能力をさらに拡大したい。将来的にはワクチン以外のさまざまな分野でmRNAやLNPを使用することを考えている。mRNAは、がん、自己免疫疾患、遺伝病、その他の遺伝子治療にも利用できる。より多くの製品をドイツや世界の他の地域で生産する方法を検討したい」

 - mRNA関連以外では今年、生体材料である乳酸・グリコール酸コポリマー(PLGA)「LACTEL」事業を買収しました。

 「当社は非経口ドラッグデリバリーにフォーカスしている。従来手がけているPLGAの「RESOMER」や、フィトコール、脂質製品もみな、標的薬物送達や徐放性薬物送達に使用される重要な成分だ。製品に関する専門知識を持つことで、製造工程でこれらを使用するための専門知識と技術を生み出すことができる。再生医療も非常に魅力的な分野で、当社はシンガポールに組織工学を研究する施設を持っている」

 - 日本ではどのような取り組みをしていますか。

 「日本はイノベーションが盛んな国だ。日本国内だけでなく、世界に向けてイノベーションを起こしている。当社は営業、薬事、製剤・応用サービスラボなど、非常に充実した体制を整え、多くのイノベーター企業と仕事をしている。日本の製薬会社は、私たちが目にするなかで最も革新的な企業の一つだ。日本は再生医療でも世界をリードしている。日本にいないということは、世界の医薬品市場にいないのと同じことだ」

 「日本は細胞を使った治療法の研究で非常に革新的だ。LNPを使ってこの分野の研究を行っている企業もあり成長が期待できる。新しい化学物質の開発でも非常に強い力を発揮している。バイオロジクスの分野では、日本がモノクローナル抗体などの非常に専門的な分野に投資していることが分かる。日本は当社の成長分野に力を入れている」(聞き手=豊田悦史、山田英樹)

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