国内創薬ベンチャーが新型コロナウイルス感染症の新薬開発に相次ぎ乗り出す。オンコリスバイオファーマは日米で特例承認されている「レムデシビル」に比べて抗ウイルス活性の強い候補薬を発見し、2021年をめどに前臨床試験に進める。インタープロテイン(大阪市)は人工知能(AI)を駆使し、ウイルス複製に関与する酵素を抑える薬剤候補を1800以上の低分子薬から12に絞り込んだ。ベンチャーならではの機動力が、新型ウイルスの有力な対抗手段となるか、期待が集まる。

◆オンコリス

 「社会や経済が新型コロナに打ち勝つにはウイルスを消失させる新薬の開発が欠かせない。われわれはそれに挑戦する」。オンコリスの浦田泰生社長は、これまでのウイルス領域における創薬経験を踏まえて意気込みをみせた。

 同社はHIV治療薬の研究を長年手がけ、新薬候補を米製薬大手に導出した実績もある。HIVのワクチンは多くの製薬大手が挑むが、いまだ実現していない。一方、治療薬はウイルス増殖を抑える新薬が相次ぎ登場し、配合剤や併用する治療法で血中のウイルス量を限りなく少なく抑えられることが可能になった。

 コロナワクチンも開発は盛んだが、ワクチン開発の歴史を参考にすれば実用化は一筋縄にいかないだろう。

 オンコリスは3月初めにはコロナ薬の研究に着手していた。HIV薬などを06年から共同研究してきた鹿児島大学と共有する化合物ライブラリーとウイルスを反応させるスクリーニングに着手。レムデシビルよりも活性が強く、ウイルスの増殖抑制効果を見込める候補化合物を複数見つけた。現在、毒性、活性、吸収性を評価し有望品に絞り込む段階まで進んだ。

 作用メカニズムは解明中だが、新たな作用を持つ公算が大きい。作用の異なるレムデシビルなどと併用すれば、より効果的にウイルス増殖を抑えられる。分子量が小さいため経口薬にでき、軽症から中等症の患者を治療対象に見据える。22年以降の治験入りを目指し、日本に加え「米国治験も検討していく」(同)。

◆インタープロテイン

 インタープロテインは、たんぱく質間相互作用(PPI)を阻害する低分子薬の開発を得意とするベンチャーだ。新型コロナ薬の研究には「AI-guided INTENDD」と呼ぶ独自技術を応用。2月下旬にドラッグリポジショニングを始めた。

 コロナウイルスの複製に必須の酵素「3CLプロテアーゼ」に着目。この酵素に結合し働きを抑える薬剤候補を1800以上の低分子の既承認薬から探索し、12まで絞り込むことに成功した。他機関と協力して臨床試験に進める。成功すれば、別のウイルスやバクテリアによる感染症への展開も視野に入れる。

 同社は、コロナ薬としても開発が進む抗体医薬「アクテムラ」(中外製薬の製品)を生んだ大阪大学の関係者らが中心となって発足した。インターロイキン6を阻害する「低分子版アクテムラ」の実用化が当初の目的のひとつだったが、07年から「低分子薬によるPPI制御」に方針を転換し、社名も変えた。

 インタープロテインの細田雅人社長は「PPI制御低分子は、65万の創薬標的がある『宝の山』」と話す。低分子薬はたんぱく質(プロテアーゼ、キナーゼなど)単体やイオンチャンネルを狙うのが通例だが、ほとんどの標的が「探し尽くされた」(同)。抗体医薬は低分子に比べPPIを狙いやすいが、サイズが大きいため標的に限界がある。

 同社のAI-guided INTENDDは、標的候補たんぱく質の結合部位を探し出す自社技術「INTENDD」を基に、エーアイスクエア(東京都千代田区)のAIを融合させて探索効率の向上を実現した。

◆ボナック

 核酸医薬ベンチャーのボナック(福岡県)もコロナの治療候補薬の合成に成功、22年の治験入りを目指す。特徴的なのは現在流行する新型コロナだけでなく、変異していく新興ウイルスにも即座に対応できる技術になり得る可能性があることだ。

 コロナウイルスは遺伝情報を持つが自ら増殖できないRNA(リボ核酸)をたんぱく質の殻で覆った構造をしている。人の細胞に侵入してRNAを複製し増殖する。ボナックの核酸医薬はこのRNAの一部の領域に結合し増殖を阻止する働きがある。新型コロナの遺伝子配列を基にすでに約50種類の候補薬を合成した。

 新型コロナ薬開発を通じてメカニズムを立証できれば、新興ウイルスにも応用できる。原薬の製造は提携先の住友化学に委託する方向で、治験に向けて製薬会社とも交渉中だ。

◆ペプチドリーム

 ペプチドリームは、新型ウイルスがヒトの細胞に侵入する際に必須となるスパイクたんぱく質の一部の領域などに結合する特殊環状ペプチドやペプチド薬物複合体(PDC)などの創製を始めた。創薬研究で提携する米製薬メルクと新型コロナでも共同研究を進める。

◆実用化には支援が必須

 機動力を生かしコロナ薬開発に相次ぎ参入するベンチャーだが、課題もある。資金力などリソースが十分でないことだ。オンコリスの浦田社長は治験入りまでに「5億円は必要」と話す。政府は補正予算で助成メニューを用意するが、実用化までに幅広い支援が欠かせない。治験入りには新薬候補物質の量産化も必要で、同社は、大量合成法の開発に向けて原薬の製造技術を持つ企業などに協力を打診している。(三枝寿一、濱田一智)

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

ライフイノベーションの最新記事もっと見る