スイス製薬大手ロシュの日本法人、ロシュ・ダイアグノスティックス(東京都港区)はメッセンジャーRNA(mRNA)製造用原料の日本への供給を強化する。mRNAを使った新型コロナウイルスワクチンの国産化を政府が後押しし、製薬会社や製造受託企業の生産需要が高まる。医薬品に応用する研究開発も広がる。ワクチンが体内で異物として排除されないようにするための修飾核酸「シュウドウリジン」など新製品も日本に投入する。

 ロシュの診断薬事業部門であるロシュ・ダイアグノスティックスの「カスタムバイオテック部」がmRNAの原料ビジネスを手がける。原料は独ペンツベルク工場で生産し、日本に供給する。有識者を招いたウェビナーや医学系学会でのウェブ展示会などを通じて認知を広め、日本の市場を掘り起こす。

 mRNAの製造プロセスはこうだ。まず治療ターゲットとなるたんぱく質、ワクチンであれば抗原の遺伝子情報を組み込んだプラスミドDNAを大腸菌などの微生物に導入して培養し、鋳型DNAを取り出す。次に鋳型DNAを元にインビトロ転写により遺伝子情報が組み込まれたmRNAを合成する。

 ロシュ・ダイアグノスティックスは、プラスミドDNAの工程で用いる各種酵素や処理溶液、不要物質の残留検査のための製品などを手がけ、mRNAの転写や合成のプロセスでは、RNAの合成酵素やRNAを構成する物質「リボヌクレオチド」などを製品に持つ。

 mRNAは米ファイザーやモデルナが開発したコロナワクチンによって初めて各国規制当局の承認を得た新技術で、これを皮切りに今後、承認案件が増える見通し。一方で商用化するには医薬品の品質・管理基準GMPへの対応が欠かせない。

 同社はmRNAの転写や合成に用いる原料をほぼ揃え、現状、GMPグレードで供給できるのは世界で同社に限られるとみられる。ライバルのメーカーは研究用レベルの供給にとどまっている。

 一連のmRNA原料は抗生物質や動物由来の物質を含まず、純度が高いのも特徴だ。研究開発から製品化まで同一原料をバルク供給できるのも強みという。今後はRNA合成酵素の種類を増やすほか、コロナワクチンで重要原料として注目されている修飾核酸シュウドウリジンを日本に2021年中に投入する予定。

 ロシュ・ダイアグノスティックス日本法人は18年ごろから日本にmRNA原料の紹介を始めた。コロナ流行前後から実績を積み上げ、今年に入って「さらに引き合いが増えている」(同社)。mRNAをがんなどの治療薬に応用する研究開発も製薬会社やベンチャーが手がけ始めている。

 日本ではコロナワクチン向けのmRNAを第一三共が開発中で、埼玉県内の工場に製造体制を敷く。医薬品の開発・製造受託企業(CDMO)でもmRNAへの参入が相次ぎ、武田薬品工業の湘南研究所から分社化したアクセリードやエリクサジェン・サイエンティフィック、ヤマサ醤油が進出。製薬会社の新薬開発も活発化しており、日本でも原料需要が高まっていく見通しだ。

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

メディカルの最新記事もっと見る