新型コロナウイルス感染症の回復者に再感染を防ぐ中和抗体が備わっているかを解明する日本初の大規模疫学調査が8月から始まる。横浜市立大学の山中竹春教授の研究陣が実施し、東ソーの抗体検査薬や全自動免疫測定装置を使う。統計解析で医学的な意義を見いだせれば、集団免疫の把握やワクチンの接種回数の検討などに応用できる。今年秋にも最初の調査結果を公表する予定。

 疫学調査は、精度の高い国産抗体検査薬を普及させる狙いもある。海外品など10種以上の抗体検査薬が流通するが、風邪のコロナウイルスに対する抗体を誤って検出する偽陽性が出るなど精度の低さが指摘される。また、新型コロナウイルスに感染すると複数の抗体が産生されるが、それぞれの抗体の中和作用や持続力も分かっていない。

 同大や東ソーは高精度の抗体検査薬を共同開発した。コロナ流行前の1500人の血液検体で評価し、陰性を正しく陰性と判定する特異度は100%だった。全自動化学発光酵素免疫測定装置で微量の抗体も検出でき、陽性を正しく陽性と判定する感度もほぼ100%という。東ソーは抗体検査薬について今年冬の薬事承認取得を目指す。

 抗体検査薬は新型ウイルスを構成するヌクレオカプシドたんぱく質とスパイクたんぱく質に対する抗体量を測定できる。疫学調査は感染から回復した日本在住の20歳以上を対象に行う。PCR検査陽性判定日から半年後と1年後の2回採血し、抗体の有無を調べる。同大医学部が開発した短時間で大量に中和抗体測定を行える技術を使い、同大の実験室で解析する。

 予定する被験者数は300~400人。8月から専用電話で受け付け、採血できる最寄りの医療機関を紹介する。検査費は無料。検査結果は被験者に知らせる。

 山中教授は29日の会見で既感染率の正しい推定やワクチン開発に加えて「中和抗体を用いた治療の開発にも弾みがつく」とも話した。

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