【上海=但田洋平】中国ビジネスを堅調に拡大してきた東レ。新型コロナウイルスの感染拡大で自動車材料などは苦戦を強いられるものの、水処理やライフサイエンス、電子材料、炭素繊維といった強みの事業が健闘し、収益低下は最小限にとどまる。首藤和彦在中国東レ代表は、経済回復にあわせ「環境」「健康」「水」といったメガトレンドを取り込み、一層の内需深耕に努める構えを示す。

◆…東レグループは中国に関連会社含め約60社を有し、生産拠点は30近くに上ります。1万人の従業員を抱え、春節(旧正月)以降の立ち上げに苦労もあったようです。

 「春節期間には多くの駐在員が日本に一時帰国していた。工場を再稼働させなければならないが、全員を中国に戻すわけにもいかない。まずは事業継続計画(BCP)リストを策定、工場の立ち上げプロセスや必要な人材、渡航に際する留意事項などを洗い出し、(操業再開許可が下りた)2月10日には大半の工場を稼働させた。地域や業種によって許可がなかなか得られないものもあったが、2月後半にはほぼすべての工場を立ち上げられた」

 「当初苦労したのがマスクや体温計の調達だ。とくにマスクは市中で手に入らず、日本の備蓄分をまわしてもらうことにしたが、航空便を待っていては明日の操業に間に合わない。とにかく1週間分、7万枚のマスクが必要だったため、帰還者それぞれにハンドキャリーで運んでもらうことで何とか切り抜けた」

◆‥中国の1~3月の国内総生産(GDP)は6・8%のマイナスとなりました。この間の業績は。

 「1月末にコロナが業績にどの程度影響を与えるか試算したが、結果として1~3月は想定したほど悪くなかった。予算に対して売り上げで10%の未達といったところだ。一方、4~6月以降は環境悪化を懸念している。輸出が停滞し、頼みの内需も生活必需品こそ悪くないが、それ以外の消費が戻り切らないのが理由だ」

◆‥個別の事業について。

 「苦戦しているのは、まず、アパレル向けの繊維。暖冬に加えコロナの影響で内需が縮小した。また、車部材もティア1、ティア2の在庫積み増し需要があり2月は健闘したが、3月以降にグッと落ち込んだ。4月の新車販売は前年比で改善しており、下期以降の市場回復を期待する。その他はおおむね堅調だ。繊維もマスクや防護服、おむつ向けの不織布などは需給がひっ迫している。空気清浄器のエアフィルター、ダイアライザーの販売も好調。水処理膜は更新の遅れがあるものの心配するほどではない。OLED(有機EL)向けのアラミド材料、炭素繊維も水素タンクやカーボンペーパーに加えパソコンの筐体向けに需要が旺盛だ」

◆‥重点領域に位置づけてきた「空気」や「水」「健康」に関する分野は総じて好調のようです。

 「一時的な需要減はあっても、こうした領域は長い目でみれば安定して推移するもの。そもそも、米中摩擦やコロナが発生しても中国事業のスタンスは不変だ。素材メーカーとして環境、健康ニーズに応え、内需伸長に不可欠な部材を提供するのがわれわれの生きる道。投資については急いで進める必要はないが、諦めて他に移すつもりもない。必要な検討はしっかり進める」

デジタル化が加速

◆‥アフターコロナで変わることはありますか。

 「中国のデジタル化の進展がますます加速するとみている。中央政府も『新型インフラ投資』にアクセルを踏むと強調しており、第5世代通信(5G)や人工知能(AI)、半導体への投資がより拡大するだろう。こうした分野での先端材料の需要拡大は素材メーカーに追い風となる」

◆‥そのためにも研究開発(R&D)の底上げが不可欠です。

 「先端材料のR&Dである上海市の東麗先端材料研究開発(中国)有限公司(TARC)と、南通市の東麗繊維研究所(中国)有限公司(TFRC)の2拠点を統括すべく、今年1月に役員クラスを副董事長として招へいした。現地ニーズにより即したテーマを設定し、戦略的なR&Dにつなげるのが狙いだ。現地だけですべて解決できるわけではない。必要に応じ日本の研究所とも連携を深めていく」(随時掲載)

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