ワクチン最大手である英グラクソ・スミスクライン(GSK)は、100年以上前からさまざまな感染症に対するワクチンを開発してきた。新型コロナウイルス感染症では、ワクチンの効果を高めるアジュバント(免疫増強剤)技術で開発各社を支援する。世界最大規模の製造能力を活用して10億接種分のアジュバントを供給する計画だ。GSK日本法人のポール・リレット社長によると、新型コロナは働き方や新薬開発に大きな変革をもたらしているが、革新的なワクチンを開発して成長するという従来からの戦略は今後も変わらないという。

 - 新型コロナは事業活動にどのような影響を及ぼしていますか。

 「臨床試験は若干の遅れが生じる可能性はあるが、大きな影響はないとみる。グローバルが発表した今年1~3月期決算は、売上高、利益ともに好調で、新型コロナの影響は限定的だった。ワクチンを強みとするGSKのポートフォリオの重要性が改めて認識され、世界で必要とされている」

 - 社内はどう変わりましたか。

 「社内の専門家を集めた危機管理チームを立ち上げ、会社の取り組みを頻繁に話し合ってきた。重視したのは、『オーバー・コミュニケーション』。過剰なぐらいに社内のコミュニケーションを充実させることが、今の状況下ではちょうどいいと考えている。在宅ワークが続いても、社員全員が気持ちを前向きにして成果を出せる環境づくりに力を入れている」

 「リモートでも経営陣と社員の距離感が近くなってきた。業界をリードする会社として、社会が新しく変わるときリードする役割を果たしたい」

 - 新型コロナワクチンでは、さまざまな企業と提携を結んでいます。

 「新型コロナワクチンについてGSKは、コラボレーションにより貢献する方針だ。独自のアジュバント技術を他社に提供して早期開発を後押しする。大量のワクチンが急に必要になったとき、アジュバントがあればボリュームとスピードの課題を解決できる。これまでに7つの企業や大学などと提携した」

 - 日本での開発は。

 「基本的に開発の主体となる提携先が決める。仏サノフィと共同開発するワクチンは、グローバルで来年下半期までに製品化する予定だ。もちろんグローバルに供給することを前提とするが、日本で治験を行う計画は現時点で決まっていない」

 「治療薬では、関節リウマチ治療薬として開発していた自社の抗体医薬『オチリマブ』を転用し、新型コロナ重症患者に対する治療法として開発する。海外で臨床試験が始まり、日本もグローバル試験に参加する予定だ」

 - 早期実用化に必要なものは。

 「研究開発の科学的知見を共有し、大規模な生産能力やアジュバント技術も活用し、最も有望なアプローチに焦点を当てて協調的に取り組むことが不可欠だ。GSKは規制当局と緊密に連携して臨床試験を行い、いち早く日本にもワクチンを供給できるよう取り組む」

 - 欧米の大手製薬企業は、必ずしも利益に直結しない活動や価格で途上国・新興国市場を開拓してきました。

 「今回のパンデミックで、他社との提携などを通じてさまざまな取り組みを計画しているが、利益を得ることは期待していない。これで得られた短期的な収益は、次のパンデミックに備えた長期的な投資へ振り向けられる」

 - 日本事業の戦略は変わりますか。

 「イノベーティブなワクチンは大きな需要があり、結果として収益にも貢献する。画期的なワクチンを日本に導入するという戦略はこれからも変わらない。新型コロナの世界的流行でワクチンの重要性が改めて認識されている」(聞き手=赤羽環希)

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