明治ホールディングス傘下のKMバイオロジクス(熊本市)は、新型コロナウイルスワクチンの開発を前倒しで進める。ヒトでの臨床試験を始めるのは来年度になるとみていたが、2020年度中に開始できる可能性が高まってきた。来月には、治験開始の前段階にあたる試験に着手し、安全性などを評価する。新型インフルエンザワクチンの生産支援事業で整備した製造施設を活用し、数千万人分のワクチン供給を目指す。新たなコロナウイルスの流行や変異にも迅速に対応できるよう、「プロトタイプ」ワクチンとしても開発を進めていく。

 KMバイオは、新型コロナウイルスの毒性を除去し、免疫獲得に必要な成分だけで作る不活化ワクチンを開発。同ワクチンの研究開発代表者を務める園田憲悟・製品開発部長によると、マウスを使った動物試験で免疫原性を確認し、開発候補となるワクチンの製法がほぼ固まってきた。8月中には、安全性を評価するGLP準拠の前臨床試験を開始できる見込み。

 同社は当初、非臨床試験が20年度いっぱいかかり、ヒトでの最初の臨床試験(FIH試験)を開始できるのは来年度になると公表していたが、前倒しで進められそうな状況になってきた。FIH試験入りまでに必要なデータなどが各国の薬事当局で整理され、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と協議した結果、最初の見込みより早く非臨床試験を完了できそうという。8月からの前臨床試験が順調に進めば、今年度中のFIH試験入りが可能になるとみている。

 通常のワクチンは、第3相臨床試験を行ったうえで製造販売承認を申請、承認されてから一般向けに供給が可能になる。だが早期に多くの人が接種を受けられるようにするため、同社は大規模試験を拡大して続けるかたちで供給することも検討しているという。

 ワクチン製造には、約10年前に政府が始めた新型インフルワクチンの開発・生産支援事業で整備した製造設備を使う。フル稼働すればインフルワクチン換算で5700万人分を半年以内に供給できる。今後の開発で決まる接種回数や用量にもよるが、コロナワクチンでも「インフルワクチンに匹敵するような生産量は狙っていきたい」(園田氏)という。短期間で多くのワクチン供給を可能にするため、アジュバントの活用も検討する。

 いま流行しているコロナウイルスだけでなく、新たなコロナウイルスや変異型に対応できる「プロトタイプ」ワクチンとしても実用化を目指す。プロトタイプ・ワクチンは、新たなウイルス型が流行しても、最低限の非臨床・臨床データがあれば供給開始できる。「対応ウイルスを広く設定して検討しておき、いざというときに最短で供給開始できるスキームを作っておきたい」(園田氏)考えだ。

 同社は、他社の新型コロナワクチン開発にもかかわっている。英アストラゼネカ(AZ)が開発中のワクチンでは、国内供給分のワクチンをKMバイオが充填・包装することで協議を始めた。自社のワクチンとは開発・製造のタイミングや拠点が異なるため、同時進行で対応できると判断した。園田氏は、「東京五輪に間に合いそうな可能性のあるワクチンがあって、われわれがそこに協力できるのであれば、まずそこで貢献したい」と話している。(赤羽環希)

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