「8020運動」の提唱などで自己の歯の延命化への関心が高まるなか、歯の喪失を防ぐ新たな治療法として「歯髄再生治療」が、より身近な治療法になりつつある。自らの不用歯から歯髄を採取し、その中に含まれる歯髄幹細胞を培養増殖し、虫歯(不可逆性歯髄炎など)で神経を喪失した歯に移植することによって歯髄を再生する治療法。エア・ウォーターのグループ会社で歯髄関連事業を企画・推進するアエラスバイオ(神戸市)と、同社が提携する「RD歯科クリニック」(同)が2020年6月から歯髄再生治療を手掛けている。

 厚生労働省に提出した新たな再生医療等提供計画が先ごろ受理されたことにより、過去に抜髄治療を行った歯(歯の神経の代わりに詰め物が入っている状態)にも歯髄再生治療の適応が認められた。また、これまでは治療対象となる患者の年齢が20歳以上だったが、これまでの研究結果を踏まえて治療の安全性が認められたため、7歳以上に対象年齢が引き下げられた。

 アエラスバイオおよびRD歯科クリニックは、歯髄再生治療を開始した20年から、国内の歯科クリニックを中心に同治療の普及に取り組んでいる。実施を希望する歯科医院に向けた歯髄再生治療技術習得のための講習会や、治療の開始に向けた厚労省への届出などの支援を行っている。21年8月には全国で3歯科医院(愛知・大阪・福岡)からの届出が受理され、治療が開始された。さらに現在、3歯科医院(東京・大阪・福岡)で治療の開始に向けて特定認定再生医療等委員会の審査が行われている。

 将来の歯髄再生治療に備えて、矯正により今抜いてしまう歯や不用歯および乳歯の歯髄幹細胞を保管する「アエラスバイオ歯髄幹細胞バンク」も立ち上がっている。乳歯が抜ける時など不用歯が発生するタイミングで歯髄幹細胞を採取し、長期間保管しておくことで将来、虫歯や歯髄炎などが原因で歯の神経を抜くことになった際に用いることができる。現在市中の歯科医院との提携が進んでおり、保管数が増加している。

 今後、歯髄再生治療を受けることができる市中の歯科医院を全国に拡大する方針。また現時点では自分の不用歯から採取した幹細胞による治療となるが、他人(主として近親者)の歯から採取した幹細胞による治療の実現も目指していく。歯髄再生治療は、虫歯による歯喪失リスクの低減やQOL(生活の質)向上が期待される。歯髄の中に含まれる歯髄幹細胞は、血管や神経組織を誘導する能力が高いとされており、同治療が果たす社会的意義は大きい。

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