コロナ禍以降、テレワークの普及とともにオンラインコミュニケーションツールによる会議やセミナーが定着してきたが、ビジネスの現場ではビデオOFF(「顔出し」なし)にする場合も多い。ただビデオOFFでは、リアルの対話なら視覚から無意識的に得られた表情やしぐさ、身ぶり、手ぶりなどの非言語の情報が不足してしまう。

 オンラインコミュニケーション協会は武蔵野大学と共同で、ビデオON/OFFの2パターンで対話における意見対立や、合意形成する時間、意思決定の質について比較検証した結果を公表した。ビデオOFFの場合、メンバーの多様性を原因とする意見対立を避けるようになって合意形成に時間がかかり、意思決定の質が悪化するとの結論を得た。具体的には、ビデオOFFでは年齢が多様なほど対立を回避する程度が高まる傾向があったが、ビデオONでは年齢が多様なほど対立を回避しない傾向が強まった。またビデオOFFではグループに性別の異なる人が加わるほど合意形成の時間が長くなり、長いほどスコア(グループの意思決定と模範解答のズレ)が悪化する傾向があった。

 この結果、ビデオOFFの場合について次のようなビジネス上の懸念を挙げた。「異動やメンバー入れ替えがあった組織や部署で、新メンバーがもたらす斬新なアイデアや意見などの新たな視点が無駄になったり、新陳代謝が阻害される可能性がある」「アイデア出しの会議、ミーティングでは他の参加者と異なる意見を言いにくくなり、斬新なアイデアや新しい考えが出なくなったり、イノベーションの芽を摘む恐れがある」「原因分析やデータ解析などの会議、ミーティングでは追及が甘くなり真因にたどり着けない、あるいは誤った原因にたどり着く可能性がある」。

 同協会の初谷純代表理事は「ビデオOFFでの対話は離れた場所でも相手の表情、仕草を見ながら対話できる恩恵を無視しており、フルフェイスのヘルメットやお面をかぶってオンラインの会議やミーティングに参加するようなもの」と指摘。ビデオOFFにする背景には、通信環境の問題やプライベート空間である自宅の様子が映り込むことへの抵抗があるが、通信環境は第5世代通信(5G)の普及などで改善が進む一方、プライバシー保護の観点は慎重な対応が必要としている。

 最終的にはビデオOFFによりコミュニケーション上、ネガティブな影響が出ることを共通の認識としたうえで、状況に応じON/OFFを使い分けることが期待される。慣れてきた今こそ、運用を見直す良い機会ではないか。

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