七十二候が秋分の次候「蟄虫坏戸」に変わり、寒さを覚えた虫たちが地中に姿を隠す頃となった。秋早い時期の暖かな日には土から出て日光浴することもあるらしいが、秋が深くなると本格的に冬眠に入り翌春まで姿を現さない▼蟄虫ならぬ「蟄居」は、主に江戸時代に公家や武士へ科された刑罰の一つ。出仕・外出を禁じ、1室に謹慎させられた。現在で言えば、陽性判定だけでなく濃厚接触者も、自宅待機期間は蟄居とほぼ同じような処遇とならざるを得ない。このような状況がもう2年半以上続いている▼岸田首相は先週、訪問先のニューヨークで、新型コロナ感染症の水際対策を来月11日から緩和し、1日当たりの入国者数の上限を撤廃すると発表。個人旅行の解禁と短期訪日時のビザ免除も実施する。見送られてきた観光支援策の全国旅行割も同日から始まる。コロナ禍で打撃を受けた観光業や交通機関などは期待が膨らむ▼G7のなかで入国者制限を唯一実施していた日本は、自ら閉ざしていた門戸をようやく開く。第8波の懸念がなくなったわけではないが、重症化率の推移や各国の動きをみれば当然の流れだろう。WHO事務局長が言う「見え始めたトンネルの終わりの光」が、もっと確かなものになって欲しい。少なくとも、春になり虫たちが再び姿を現すまでには。(22・9・28) 

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