国産新型コロナワクチンの実用化にこぎ着けられなかった反省から、昨年6月に閣議決定された「ワクチン開発・生産体制強化戦略」。政府一体で必要な体制を再構築し、継続的な支援をうたう。内容は多岐にわたるもので、骨子の一つが世界トップレベルのワクチン研究開発拠点を国内に立ち上げること。先月末、支援対象として東京大学などが決まった。今後、到来が予測される次の感染症に備え、実効性のある取り組みが進むことを期待したい。

 中核の「フラッグシップ拠点」に東京大学を、相乗効果が見込める「シナジー拠点」に北海道大学、千葉大学、大阪大学、長崎大学を選んだ。動物実験など必要な機能を提供する「サポート機関」には実験動物中央研究所(実中研)などが名を連ねる。支援期間は10年。まず5年間で515億円を投じる。

 フラッグシップ拠点のトップの拠点長には、国際的に著名なウイルス研究者、東大医科学研究所(東大医科研)の河岡義裕特任教授が就く。河岡拠点長の下、東大は「新世代感染症センター」(UTOPIA)を新設。感染症、免疫、ワクチンに関する基礎、応用研究を進めていく。製薬会社などへの成果導出を常に意識すると同時に、企業と遠隔ロボット実験システムや革新的治験薬製造システムの開発研究などにも取り組むことも盛り込んだ。

 シナジー拠点の役割も重要となる。北大の人獣共通感染症、長崎大の熱帯感染症といった、それぞれの強みや知見を提供、開発を支援する。千葉大は粘膜ワクチン、阪大はメッセンジャーRNA(mRNA)やペプチドなどの新規モダリティ(治療手段)の成果に基づき、国産ワクチン実用化への貢献を目指す。

 今回の決定で、研究開発面での“器”は整った格好となる。成否を分けるポイントの一つが、製品化を担う産業界とどれだけ円滑な協業体制が敷けるかだろう。フラッグシップ拠点副拠点長には産業界出身者が就任する予定だが、企業ラボ設置や産学官連携コンソーシアムの立ち上げなども控えるなか、実力者を招聘できるかが問われる。

 もう一つは新規モダリティへの対応だ。わが国がmRNAで出遅れたことを鑑み、海外の最先端情報を収集・評価する仕組みを築き、研究開発に反映できるようにする必要がある。時には野心的と思われるテーマに挑むこともあるだろうが、国民の理解を得るためにも、その内容を分かりやすく説明することが欠かせない。せっかくの良いモダリティであっても忌避されては意味はない。広報活動が果たす役割も大きい。

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