「養殖業成長産業化総合戦略」が改訂され、魚類養殖に加え、新たに貝類・藻類養殖への成長産業化の方向性が示された。需要に対応したマーケット・イン型養殖業へ転換する。成長産業化のためには貝類・藻類の抱えている魚類養殖と異なる課題も解決しなければならない。市場開拓、機械化・省力化技術の開発・導入、高温耐性育種など対処すべきことは多い。貝類は海外で需要拡大が予想される。漁船漁業による生産が頭打ちとなっているいま、魚類を含め高品質、開発・技術力などに優れた日本の養殖業の強味を発揮させる仕掛けに期待したい。

 水産養殖の生産量は、日本の漁業全体の2割前半程度。中国など外国に比べ低い。同総合戦略は昨年、漁類養殖を対象に策定された。需要に応じ安定供給するマーケット・イン型に転換するための施策には、成長の良い品種の開発や省人・省力化、漁場の有効活用によるコスト削減、収益性改善、業者間のグループ化の選択などが提示され、養殖業者だけでなく、関連業界含め、市場開拓に取り組む姿勢を見せる必要があるとしている。今年、総合戦略の改訂により、成長産業化の対象として貝類・藻類に初めて道筋ができた。戦略品目はブリ、マダイ、クロマグロ、サケ・マス類、ハタ類など新魚種に、ホタテガイ、真珠が加わり7つに改められた。貝類2品目の選定は、海外需要の拡大を狙いとするものだ。

 それを裏付けるのが今年7月に公表された農林水産物・食品の輸出額である。ホタテ貝は、57億3000万円と水産物で1位。前年同期比49%増と伸長している。また真珠は15億7000万円だが、伸長率は同90%増。いずれも将来、日本発の水産物として有望な品目だと分かる。

 無給餌養殖である貝類・藻類を成長産業化するうえで難しいのは、栄養塩類や餌となるプランクトンが豊富な海域に限られるという点。限られた漁場・生産規模で効率よく生産性を高めることや、新養殖品種による利用水域の開拓が求められる。魚類では養殖コストの6~7割を占める餌代の低減が課題であるのに対し、異なる視点からの課題である。解決策を見出すには、養殖専門家だけでなく、異分野からの幅広く協力・意見を受ける環境づくりが必要である。水産庁は、2022年度に向けて支援事業の予算を要求している。新素材による現場や物流に使うツール、環境科学知識、バイオ技術が求められ、環境保全、循環型社会に力を注ぐ化学企業にとっても、魅力ある挑戦分野、新たなビジネスチャンスのある分野といえるのではないか。

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