世界で加速するEV(電気自動車)化を背景に、政府主導で次世代蓄電池・モーターの開発プロジェクトが動き出す。地球温暖化対策の観点から、世界・国内ともに全体の16%を占める自動車の利用段階におけるCO2排出量の削減は喫緊の課題。取り組みには各国の産業政策も加わり、グローバル市場における日本の産業競争力にも直結する。政府プロジェクトでは高性能蓄電池・材料、蓄電池のリサイクル関連技術、モビリティ向けモーターシステムの高効率化・高出力密度化技術を開発する計画で、各社の技術ノウハウの結集が望まれる。

 11月に経済産業省が策定した「次世代蓄電池・モーターの開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画では、2030年を目標に(1)パックでの体積エネルギー密度が現行の2倍以上の700~800ワット/リットル以上となる蓄電池(高容量系)(2)パックでの出力密度が2000~2500ワット/キログラム以上で、体積エネルギー密度が200~300ワット/リットル以上となる蓄電池(高入出力系)-の要素技術・生産技術を開発する計画。またモーターでは、平均のシステム効率として85%以上を目指す。同時に、より幅広いモビリティ領域の電動化を可能とするモーターシステムの小型軽量高出力化を推進する。

 蓄電池材料については、目標性能を実現する材料技術とともに、コバルトや黒鉛といった特定国依存度の高い材料の使用量を低減する技術、材料・部材製造時のGHGを大幅に低減する生産技術を確立する。リサイクル関連技術では、市場価格の同等のコストで蓄電池材料として再利用することが可能な品質で金属単体換算でリチウム70%以上、ニッケル95%以上、コバルト95%以上の回収を目指す。

 同計画では、開発する蓄電池・モーターの実用化と普及によってCO2削減効果(ポテンシャル推計)として40年に約2・6億トン/年、50年に約9・4億トン/年が見込まれている。経済波及効果(世界市場規模推計)では、EV・PHEVの市場規模として40年に約62兆円、50年に約182兆円と試算している。

 蓄電池・モーターはEV化におけるキーテクノロジーであり、グローバル市場でのイニシアチブ確保にも必須だ。とくに今回の取り組みは、蓄電池・モーターの高性能化技術とともに材料のリサイクル技術についても開発テーマに設定。循環型社会実現に向けたプロジェクト設計となっている点も評価される。すでに蓄電池材料のリサイクルに関しては、非鉄業界を中心に実用化に向けた取り組みが進められている。世界に先んじた具現化が期待される。

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