東南アジアの経済に暗雲が漂い始めた。今年4~6月のGDP(国内総生産)伸び率は、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きかった昨年の反動によりプラス成長に転じ、主要6カ国(シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、インドネシア)すべてがマイナス成長から脱した。しかし足元では変異株が猛威を振るい、いぜん予断を許さない国がほとんど。経済回復を阻む最大の要因は、ワクチン接種率の低さだ。東南アジアは、自動車や半導体など主要産業の重要な基地であり、ワクチン接種が遅れたままでは、日本を含む世界の経済回復に影響を及ぼしかねない。

 東南アジアでは、これまでの行動制限で感染者が減り、規制を緩和する国もある。シンガポールは8月から外食を解禁し、オフィスへの出勤を半数まで緩和、企業の派遣など外国人労働者の入国も順次再開した。インドネシアは、1日の新たな感染者が一時5万人を超え、政府は4段階のうち最も高い警戒レベルに引き上げ、行動制限を行った。この結果、1日1万人を下回る状況となり、8月から首都ジャカルタなどで人数を制限したうえでの飲食店の店内営業を解禁し、基幹産業の輸出関連企業の活動を全面的に認めるなど、警戒レベルを1段階引き下げている。

 他方、新規感染者がいぜん高水準の国もある。タイは1日1万8000人近い状況が続き、首都バンコクなどではロックダウン(都市封鎖)を延長してきた。飲食業や観光業など大きな打撃を受け、失業者が数百万人ともいわれている。陽性時に一時金10万バーツ(約33万円)以上を受け取れるコロナ保険が一時出回り、貧困層を中心に意図的な感染が広がった事例もある。ワクチン接種率は1割程度で、バンコクでは不満を募らせた国民が首相退陣を求めデモを繰り広げ、警察と衝突する事態に発展している。このためタイ政府は、きょう1日から百貨店の営業や飲食店での飲食を条件付きで許可する緩和措置を始める。ワクチン接種率が数%にとどまるベトナムでは、感染拡大が深刻なホーチミンで検問所が設けられ、8月から軍が外出を厳しく監視し始めた。

 規制を緩和した国も含め今後の見通しは明るくない。シンガポールを除く主要5カ国(マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、インドネシア)は軒並み、今年通年のGDP成長率見通しを下方修正している。立ち直りつつある経済の回復速度を減速させないためには、カギを握るワクチン接種率を高めることが最優先だ。各国は国際的支援など手を尽くす必要がある。

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