ドイツのシーメンス・ヘルシニアーズは今年3月、次世代X線CT(コンピューター断層撮影装置)であるフォトンカウンティングCT(PCCT)「ネオトムアルファ」を日本市場に投入した。PCCTは、患者に照射したX線の強弱の差をとらえる放射線検出器の素子に、カドミウムテルライド(CdTe)と呼ぶ化合物半導体を採用している。従来のCTは、患者の体を透過したX線を検出器に当てて光に変え、それを電気信号に変換して画像化する。一方、PCCTは検出素子に化合物半導体を用いたことで、X線を直接電気信号に変換しX線の光子一つひとつのエネルギー情報を検出できる。

 これにより既存のCTに比べて被ばく量を大幅に低減しながら、高精細な画像が得られる。またX線光子、それぞれのエネルギーを計測することで、画像中の特定物質を選択的に強調したり、除去したりできる。現在、CT検査でヨード造影剤が使われるが体質的に合わない人もいる。PCCTはヨードだけを強調して撮影可能なため、ヨード造影剤の量を減らすことできると期待される。

 PCCTは、CTの世界に革命を起こす技術、半世紀に一度の技術といわれている。シーメンスは15年超の年月をかけて、世界に先駆けて製品化にこぎつけた。ただ同PCCTの中核部材であるCdTe検出素子は、日本企業のアクロラド(沖縄県うるま市)が開発、量産していることを忘れてはいけない。

 アクロラドは1999年、ジャパンエナジー(現ENEOS)から放射線検出素子部門をMBOして設立。独自の高純度金属精製技術、結晶成長技術を有し、CdTe検出素子を原料から一貫生産できる世界唯一の企業だ。同社が臨床用CTに耐え得る同素子を量産化したことで、PCCTは日の目を見た。

 同社は2011年、シーメンスに株式の過半を譲渡して傘下に入った。背景に現シーメンス・ヘルシニアーズCEOのベルント・モンタグ氏の「10年かかっても、アクロラドのCdTe検出素子でPCCTを製品化したい」という強い思いがあったそうだ。

 PCCTは、05年ごろから次世代CTになり得る技術として注目されていた。しかし日本の画像診断機器メーカーは、その中核部材を開発・製造できそうな企業が日本にあったにもかかわらず製品化できなかった。そして、その後れを取り戻すために海外の半導体検出器メーカーを買収せざるを得なかった。今後、国富流出につながる同様の事例を生み出すことのないよう、日本企業は、この失敗を教訓とすべきである。

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