欧米化学企業の間で、主力事業を強化するためのM&A(買収・合併)が相次いでいる。一方で、優位な市場ポジションにある事業であっても戦略に合わない事業を切り離す企業も少なくない。

 最近目を引くのは、コンクリート混和剤をはじめとする建築分野の化学品を手掛ける企業の動きである。11月に混和剤大手のMBCCグループを55億スイスフラン(約6750億円)で買収することで合意したシーカは、その一社だ。MBCCグループは、BASFがプライベート・エクイティ・ファームであるローン・スターの関連会社に関連事業を売却して発足した企業。

 12月に入って、サンゴバンが混和剤などの事業を展開するGCPアプライドテクノロジーズを約23億ドル(約2610億円)で買収することで合意した。買収完了は22年下期の見通し。GCPアプライドテクノロジーズはW・R・グレースの分社によって誕生した企業で、サンゴバンは、とくに北米市場における事業をより強固にできる。

 サンゴバンが、かつてシーカの敵対的買収に乗り出したことは周知の通り。両社の長い論争には終止符が打たれ、シーカは買収や投資を通して建設や工業用の分野で確固とした地位を確立してきたことも、また多くの関係者の知るところである。

 戦略に合わない事業を切り離す方針を固めた代表例がデュポンだ。11月に約42億ドルの売り上げ規模のモビリティー&マテリアルズ部門の大半を売却する方針を発表した。1935年に同社のカローザス博士が世界初の合成繊維として発明した「ザイテル」の商品名で知られるナイロンなどが対象になっている。

 デュポンは、一方でエレクトロニクス&インダストリアルとウオーター&プロテクションの両部門の成長に向けて買収を続けており、11月には電子材料メーカーのロジャースの買収を発表している。

 ロンザ・スペシャリティ・イングリディエンツの事業を引き継いで10月21日に発足したアークサーダは、翌月にトロイとの統合を発表して成長に向けた強い姿勢を示した。そのスピードには目を見張るものがある。

 企業は成長を追求する。M&Aは、そのための有力な手法の一つであり、ここで触れた企業の動きは一握りでしかない。各社には成功を期待する。成功の指標は数多く、顧客の事業活動に支障が出ないことは必須だ。さらに働く人たちが失望しない統合や売却を実現してほしい。顧客と働く人たちは、企業が成長するうえで欠くことができず、新たな価値を創出するための重要な要因であるからだ。

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