話をしっかり聞くという首相の前には、何代か質問にまともに答えない首相が続いた。そんな為政者を生んだ責任はあちら側ばかりではなく、メディアにもある。圧力と忖度の相互作用に支配されたこの空気。たとえばこんな空気を壊すのがジャーナリズムの役割である、という対談本を読んだ。タイトルもずばり『ジャーナリズムの役割は空気を壊すこと』▼菅官房長官時代の記者会見で司会者から同じ質問をするなと牽制された際、「納得できる答えをいただいていないので繰り返しています」と勇ましい姿勢を見せた東京新聞の望月衣塑子記者と映画監督の森達也さんの対談だ。望月記者は、気にくわない人間はとことん遠ざけるため周囲にイエスマンしかいなくなってしまった裸の王様が国を取り仕切っていたと手厳しい▼イエスマンしかいられない空気の中で奮闘した彼女もすごいが、職場の人間の支えや新聞読者の応援があったからこそだという発言には心打たれた。やはり一人では戦えないのだ▼「空気」に触発され名著『「空気」の研究』(山本七平)を久しぶりに読んだら、空気の支配に抵抗する「水の研究」がセットになっていた。「水を差す」ことの重要性について研究している。水を差すのはネガティブなこととばかり思っていたが、そうではなかった。(21・11・10)

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