世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、新型コロナウイルス感染症について「今や欧州がパンデミックの中心地となった」と述べた。その欧州ではイタリア、スペイン、フランス、ドイツといった国の感染者数が多い。こうした国々は、化学品の売り上げ規模が大きい国でもある。
 欧州化学工業協会(CEFIC)のデータによれば、欧州連合(EU)の2018年の化学品売り上げは5650億ユーロ(約67兆2300億円)。このうちドイツが31・8%を占め、13・4%のフランス、9・4%のイタリア、8・7%のオランダ、7・4%のスペインと続く。
 各国の経済を支える産業の一つが化学である。EU最大を誇る19年のドイツの化学産業の売り上げは、ドイツ化学工業協会(VCI)によると1900億ユーロを上回った。自動車、機械に次ぐ第3の産業だ。
 そのドイツ化学産業の先行きに暗雲が立ち込めている。新型コロナウイルスの影響である。VCIは同国の20年の化学品生産が前年比1・5%減少するとの見通しを発表した。0・5%増加するという当初の予想からマイナス成長に転じると見通しを転換し、化学産業は後退局面にあると判断している。
 VCIによると、19年第4四半期の化学品生産は前年同期比1・4%減少、売上高は同2・7%減の454億ユーロにとどまった。国内販売が同5・6%、海外販売が同1%、それぞれ減った。19年第3四半期に比べれば生産、売上高ともに増加しているものの、苦境からは抜け出せず、先行きにも不安材料が多いといえそうだ。
 新型コロナウイルスの感染拡大は、困難な事業環境に加え、年次株主総会の延期をも引き起こしている。ドイツ企業ではBASF、メルク、コベストロ、ワッカー・ケミー、ダイムラーなどが、スイスではクラリアントが延期する。これにより配当にかかわる決議が遅れ、不利益を受ける人もあるだろう。
 メルクは総会延期の発表に際し「喫緊の課題は新型コロナウイルスの感染をスローダウンさせ、可能な限り封じ込めることであり、最優先にすることは社員と株主の健康と安全である」とのコメントを発表した。
 その通りだと思う。同時に今だからこそ製造現場の安全を徹底して欲しい。化学企業にとって安全は何ものにも代え難い。操業を停止していたり、限られた人員で生産を続けている工場もあろう。残念ながら今は新型コロナウイルスの終息を見通すのは難しいが、いずれ迎えるその時に供給責任を果たすため、原点を見失ってはならない。

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