植物防疫制度が改正されることになった。温暖化など気候変動によって海外からの病害虫の侵入リスクが高まってきていることで、水際対策を強化する。国内で急速に繁殖し、農業被害の広がることが懸念されるため、対応を急ぐように変えていく。病害虫は農産物にとどまらず、多種多様なものに付着して持ち込まれる。検疫作業に関わる負担は増えるが、日本の農業、環境を守るうえで、必要不可欠な業務である。今回の改正を機に、環境変化、状況に応じ弾力的に対処できる法律へと進化することを望みたい。

 植物防疫制度の改正は、2月に閣議決定された新法である「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律案」(みどりの食料システム法案)との関連で行われる。2023年2月までに法律の一部改正として施行される。

 植物防疫については、国際基準を踏まえて各国で規則が定められているが、温暖化の影響などで世界の農産物の2~4割が病害虫による損失を被っており、検疫や病害虫防除を強化する動きが広まってきている。

 今回の改正のポイントは(1)水際対策の強化(2)国内での蔓延防止早期対策の強化(3)総合防除の推進(4)輸出防疫体制の整備。水際対策では、植物防疫官の権限を強化するとともに、検疫の対象を土の付着リスクの高い中古農機などへ拡大する。海外旅客が携帯品として植物や果実などの輸入禁止品を持ち込むケースが増加し病害虫の侵入リスクも高まっているが、現制度では旅客から申し出がない限り、防疫官は調べることができない。そこで疑わしい場合などに検査ができるようにする。蔓延防止早期対策の強化では、都道府県に委ねられている侵入調査を、全国斉一的に実施できるように変える。緊急防除には事前周知期間30日が必要だが、これを10日に短縮する。侵入通報義務も規定し、また緊急措置命令の内容を栽培・移動規制、倉庫の消毒などに拡充する。

 総合防除は、化学農薬に加えて発生予防を重視する仕組みを構築する。例えば、被害が拡大するジャンボタニシ対策として冬場にほ場を耕し、寒さに晒して死滅させるなどの方法が考えられている。輸出にも注意を払い、日本に存在する病害虫を海外に出すことがないように、新たに第三者機関の活用を含めて体制強化に当たる。

 病害虫は環境に適合すれば急速に広まる。仕組みの整備に甘んじることなく、警戒を緩めない心構えを、植物防疫に携わる関係者すべてが共有すべきである。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

セミナーイベント情報はこちら

社説の最新記事もっと見る