原材料や燃料の高騰などにより、いぜん景気の先行きに不透明感が強いなか、化学・素材メーカーのヘルスケア関連事業も、これまでの業績拡大路線を維持するのが難しくなっている。しかし予防領域の広がりなど成長市場であることに変わりはない。またQOL(生活の質)向上に化学が担う役割は大きい。取り巻く環境が変調しても、将来のあるべき姿に向けた戦略の実行が求められる。

 化学・素材企業の2022年4~6月期のヘルスケア事業の業績は、医療機器で半導体不足、医薬品で国内薬価改定などが影響し、減益となった企業が多い。原燃料価格の上昇も響き、この先の不確実性も高い。

 ただ各社のヘルスケア事業は、コロナ禍を受けても順調に拡大を続けてきた。21年度は帝人や積水化学工業がヘルスケア関連で最高益を更新、増益を達成した企業も相次いだ。一時的な減速感が出ているものの、新たなモダリティ(治療手段)や予防領域の広がりといった潮流に乗って市場の勢いは弱まることなく、引き続き伸びしろのある成長産業となっている。

 例えば医薬品開発・製造受託(CDMO)。製薬会社が創薬研究に経営資源を集中させ、製法開発や製造を外部に委託する動きは根強い。とくに新型コロナ感染症に対するワクチンで初めて商用化されたメッセンジャーRNA(mRNA)薬や核酸医薬は、次世代医薬品として注目されており、世界で研究開発が活発化している。核酸医薬は原薬製造で化学合成などの技術を用い、化学メーカーが活躍できる大きな可能性を秘めている。生体内酵素で分解されやすく製剤化が難しい核酸を、体内に効率的に運ぶ薬物送達システム(DDS)も化学の力がカギを握る。

 魅力的な成長産業であるヘルスケアには業種を問わず経営資源が投入されている。リコーは8月30日、コーポレートベンチャーキャピタルファンドを新設すると発表した。mRNA薬関連への出資や買収が目的。同社は7月、米社買収を通じてmRNAのCDMOに参入している。

 世界を席巻する大手も拡大投資の手綱を緩めない。バイオ薬製造用材料などを手がける米サイティバは、mRNAなどを細胞内に送達する脂質ナノ粒子(LNP)のカナダ製造拠点で大幅な設備増強を計画している。

 業界内にとどまらず、多くの企業がヘルスケア領域で虎視眈々と商機を狙う。環境が変調している時期でも、化学の多様な底力を武器に、設備投資、提携やM&A(買収・合併)など戦略を着実に遂行することが求められよう。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

セミナーイベント情報はこちら

社説の最新記事もっと見る