政府は昨年から、9月と3月を「価格交渉促進月間」として、価格交渉・転嫁を定期的に行う取引慣行の定着を目指している。雇用の約7割を支える中小企業の賃上げには(下請けの中小が)付加価値を確保できるようコストの適切な価格転嫁が必須。とくに最近は原材料・エネルギー価格や労務費が大幅に上昇している。価格転嫁は中小へのしわ寄せを解消し、コストをサプライチェーン全体で適切に分担するためにも重要だ。

 今年3月の同月間終了後に中小企業庁が行ったフォローアップ調査では、直近6カ月における(発注側企業との)交渉の協議で「話し合いに応じてもらえた」が61・4%と最も高い半面、事実上「価格協議できていない」との回答も合計約1割あった。また直近6カ月のコスト上昇分が転嫁できた割合は「3割から1割」が最も多く、次いで「0割」(費用が上昇するなかで価格据え置きなど)だった。「全く転嫁できていない」も約2割と厳しい状況にある。要素別では原材料費は比較的転嫁が進んでいるが、労務費とエネルギーコストの転嫁が厳しいようだ。

 業種別にみると、化学は価格交渉の協議が相対的にできており、繊維、鉱業・採石・砂利採取、機械製造に次ぐ4位。またコスト上昇分を価格転嫁できた割合は化学が1位でコスト要素別でも労務費、原材料費、エネルギーコストの全てで1位だった。その意味で化学は価格転嫁ができている業種といえる。

 また中小企業庁の「下請けGメン」による1560社へのヒアリングでは、化学業界から「原料は市場価格連動で四半期ごとに見直し。3月からの交渉で燃料価格の上昇分が4月分から100%認められた」「平均50~75%は認めてもらっており、取引先から何かあれば相談して欲しいといわれている」などの回答があった。一方「原油関連で昨年末から客観的なデータを示し値上げ依頼しているが認められたのはわずか」「定番品でコスト上昇による価格変更交渉ができていない。円安による収益圧迫とダブルパンチだが自社が被るしかない」など悲痛な声も聞かれる。

 ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、原油や天然ガス、石炭の価格は高水準が続くほか、物流の混乱による輸送コスト上昇、設備老朽化によるメンテナンスコスト増加など、化学産業を取り巻く環境は厳しさを増している。今のところ化学は「価格転嫁の優等生」といえるが、この9月の価格交渉促進月間を機会に、より健全でお互い納得のできる取引、商慣習、価格交渉の方策などを積極的に検討してみてはどうか。

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